2024年11月22日(金)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年9月6日

本当の原因はこれか?

 考え方としてはいろいろある。まず今回のデモで政府側が最終的に屈服し、「逃亡犯条例改正案の撤回」という要求を飲んだ。だったら、次の「普通選挙権」という要求も飲む可能性がある、という帰納法的な考え方だ。ただ、難易度は何段も上がる。「普通選挙権」といえば、香港を誰がコントロールするかという根本的な問題であり、北京政府はそう簡単に妥協するはずがない。

 すると、やはり米国の対中貿易戦争に便乗するしかない、という方向になる。そもそも、今回の条例改正案撤回という政府側の妥協はどのような背景に引き出されたのかをまず考えてみたい。

 10月1日の中国建国70周年記念日祝賀行事があって、習近平主席や国家の体面を保つためにも、香港デモをそれまでに収束させなければならない。という理由もあるだろう。そこで最終的にどんな手段が考えられるかというと、まず最悪の「第2の天安門」を避け(参照:『香港が「第2の天安門」になり得ない理由とは?』)、香港政府管轄下のリソースをフル動員して、デモ参加者の大量逮捕や戒厳令の発布といった措置が選択肢として浮上する。ただし、これらの措置を実施すると、米国の制裁を招来する可能性がある。強硬手段はまずい。

 さらになんと、9月4日という早い段階で林鄭行政長官があっさりと条例完全撤回の「敗北宣言」を出した。その理由は何であろうか。私の直感では、米国の「香港人権民主主義法案」が決定的な要因だったのではないかと思う。

 同法案は香港デモに関連し、基本的人権や自由への抑圧行動について、香港に付与された(中国本土と違う)優遇措置を取り消し、抑圧行動にかかわる関係者らの米国における資産を凍結し、米国入国を拒否するなどの制裁措置を含んでいる。特に資産凍結のダメージが大きい。一部の情報によれば、この「香港人権法案」は9月上旬の米国会で可決される可能性が高いといわれている。

 つまり条例完全撤回という香港市民側の要求を飲むことによって、米国の「香港人権法案」が立脚する基盤が崩れ、少なくとも法案現状のままでは可決できなくなるからだ。

 真相がどうであれ、香港問題が根底から解決されたわけではない。たとえ、デモなどの市民運動が今回沈静化したとしても、いつ再燃してもおかしくない。さらに、たびたびの騒動で香港の国際金融センターとしての基盤がすでにぐらついている。拙稿『香港騒動、最大の受益者がシンガポールであるワケ』にも指摘しているように、香港からの資金流出がすでに始まっている。

  
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