インド経済の長期的見通し
とは言うものの悲観的な話ばかりではない。
前述の自動車不況もアナリストたちの意見は「来年には改善する」という点で一致している。それは今回の自動車不況がインド経済の構造的な問題から起因するものでなく、在庫調整や景気循環由来のものだと見られているからだ。
また「インド経済のアキレス腱」である「ルピー安」もようやくトンネルの出口が見えてきたように感じる。去年の後半の底なしのルピー安は今年に入り少し持ち直し、8月に再び大きく下落したものの、そこから大崩れすることなくまた少しずつ相場を戻している。
そして、何よりインド経済を元気にしているのが南インドを中心に活躍している「インド発ユニコーン企業」の存在だ。日本でもビジネスを展開している世界2位のホテルチェーンOYOを筆頭に、電子決済のPaytm、ネット通販のSnapdeal、インド発のシェアライドのOLAなどは、ソフトバンクを代表とする世界中の投資家のお金を貪欲に飲み込み成長している。
ただ私はこの「インド発ユニコーン企業」にも近いうちに少しリセッションが入るように感じている。もちろんこれらのインドのユニコーン企業はどれも素晴らしい企業だし、長期的には成長することは間違いない。ただ、世界中でダブついたお金の流れ込む先として、インドのスタートアップ企業は今のところ過剰に評価されているように感じるのだ。
OYOは「世界2位のホテルチェーン」を名乗っているが、マリオットやヒルトンほどそのクオリティに統一性があるか? 答えはNoだ。Paytmはネットインフラが脆弱なインドでスムーズに現金より時間をかけずに支払いができるか? 答えはNoだ。SnapdealはAmazonほどの使いやすいインターフェースを備えているか? 答えはNoだ。OLAはUberほど厳格にドライバーの認証や管理を行っているか? これも答えはNoだ。
今話題になっているWeworkのように、過度に評価されていたスタートアップには必ず一度はリセッションが入る。おそらくインドのユニコーン企業にもそのタイミングが近いうちに来るだろう。そして市場から冷静な評価を受けたあと再び力強い成長軌道に乗るのだ。
インド経済を語る上でやはり共通のキーワードになるのは、
「成長は早くはない。しかし確実に成長する」
である。
今回の自動車不況も、金融不安も確かに短期的には危なっかしいものに見える。そして将来インドのスタートアップへのリセッションがあるかもしれない。
しかしそんな短期的な落ち込みがあっても、インドはその人口動態とその年齢構成、地政学的ポジションなど大局的な見地からゆったりとしかし確実に成長するだろう。
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