2024年11月21日(木)

インド経済を読む

2019年7月4日

毎年オーストラリアの人口と同じ数の赤ちゃんが生まれる国、インド

デリーメトロの社内(Meinzahn/gettyimages)

 6月7日、厚生労働省が発表した2018年の日本の「出生数」は衝撃的なものだった。

 その数は91.8万人。史上最低を記録した前年2017年の94.6万人から2.8万人も減少し、3年連続の100万人割れ。人口の減少は当然将来の内需の縮小を意味する。歯止めがかからない日本の人口減少問題を象徴している数字として、非常に悲観的なニュアンスでの報道が多かった。

 一方、世界2位の人口大国であるインドの「出生数」は驚きの約2500万人、日本25倍以上である。総人口が日本の約10倍であり、出生率も2.0を大きく上回っているため当たり前と言えば当たり前の数字であるが、毎年オーストラリアの総人口くらいの赤ちゃんが生まれると言えばそのすごさがイメージしやすいだろう。

 当然総人口に占める若年層の割合も非常に高く、インド全体の平均年齢は日本の47歳と比較して驚きの27歳。とにかく「若者」が多いのがインド市場の特徴なのだ。以前からこのコラムでもお話ししているように、このようなインド市場の「若さ」は21世紀の産業の中心となる「IT」を受け入れやすい土壌となり、インド市場はその「量」だけではなく「質」の面でも非常に有望なものと期待されている。

 少子高齢化問題を抱える日本から見れば羨ましい限りのインドの人口動態だが、実は今このインドの「激増する若者」がインド経済を停滞させる原因になるかもしれない…という懸念が出てきているのだ。

増え続ける人口を「どう養うのか」という苦悩

 それはこの、

「ひと世代2500万人の赤ちゃんを今後何十年にも渡りどうやって食わせるのか?」

 という問題、つまり雇用問題である。

 もちろん、まだまだ保守的なインドでは外で働かず結婚してすぐに専業主婦になる女性も多く、またある程度裕福な家庭の男性は大学卒業後海外に留学することも珍しくないので、この2500万人が約20年後に一斉に労働市場に職を求めて入り込むわけではない。

 しかしそうであっても、現時点でもおおよそ毎年1500万人の若者が職を求めて労働市場に新規参入することは紛れもない事実であり、そしてその1500万人に安定した仕事を与えるということが、まだまだ脆弱と言われるインド中間層による内需を成長させ、インドという国家をさらなる成長ステージに引き上げる重大な関門なのだ。

 逆にこの毎年1500万という膨大な数の労働市場への流入を、労働市場が吸収しきれず若者にとっての不安定な雇用状況が長引けば、当然そこに所得は生まれず、結果として旺盛な需要が期待できる中間層は育たない。加えて、雇用の不安定は社会不安を生み、5月の総選挙で勝利したばかりのモディ政権の政権基盤を壊す原因もなりかねないし、途上国の中では比較的安定しているインドの治安にも影響を及ぼすだろう。

 インドはこの「人口増大国」ゆえの苦悩を抱え続けているのだ。

 発表する組織や統計の取り方にもよるが、インドの失業率は2019年の政府発表で6.1%であり、世界的には良くもないが悪くもない水準だと言える。だが、この6.1%という数字は現地で商売をしている私の体感とは大きく乖離する。

 新しい従業員を雇おうとウェブサイトに募集概要を出せば、私の会社のような零細企業でも1週間で100人以上の募集が殺到する。そして町を眺めても、明らかに仕事をしていなさそうな大量の若者が平日の昼間からウロウロしている。そういった経験からもインドの実際の失業率はもっと高いように思う。

 では、なぜそのようなギャップが生まれるのであろうか。

 失業率は日本と同様、仕事を求めているのに仕事がない人の数を元に計算するため、質問された人自身が「仕事を探していない」と回答すれば失業率の計算からは省かれるし、インドで多いオフィスや小売店での小間使い、また事実上失業しているがuberのドライバーなどで当面の生活費を稼いでいるような人でも「仕事はある」と答えるとこちらも失業率の計算からは省かれることになる。プライドの高いインド人の多くは「失業中」と答える人は少なく、結果失業率は実態よりも低い数字になってしまうのだ。

 またこのギャップについて、政府統計資料へ疑いを向ける人が一部いるのも事実だ。日本でも問題になった雇用統計の操作は、同じく選挙による審判がある民主主義国家インドでも行われているのではないかと疑念を抱く人がいるのだ。


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