インド経済を読む

2019年7月4日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

「make in India」は「1億人の雇用」を飲み込めるのか?

 しかしこの「make in India」、先述の体感の失業率のように当初期待したほどの成果がまだ残せていないのが実情なのだが、その理由は一体何なのだろうか。

 実際のところ「make in India」と言う政府の掛け声だけは大きいのだが、運用面ではインドはまだまだ「世界の製造業さん、どうぞいらっしゃい」という体制がとられていないのだ。

 例えば税制。鳴り物入りで2017年から始まったインドの統一間接税であるGSTだがその制度は依然として複雑そのもの。そのため2018年3月期のGST申告の期限は、当初予定の2018年12月から何度も延期され結局今現在でもその期限は到来していない。2018年3月末の税務数値を1年以上たった今現在でも固めることができないという異常事態なのだ。

 また、いくつかの点において会社法周りのコンプライアンスが昨年4月より厳しくなっている点も外資系企業にとっては頭痛の種だ。政府は海外に資産や所得を逃がしたり、トンネル会社を作ったりするインド人富裕層への対策がその目的であり、外資系企業を苦しめる意図はないと説明しているが、実際に外資系企業に求められるコンプラ対策の工数は増え続けている。

 鴻海のような巨大企業であれば、こういった税制やコンプラの問題に対応するのは難しくないかもしれない。しかし管理部門にコストを掛けられない中小製造業にとって、巨大な設備投資をしたうえでさらなる負担が生じるのは避けたいのが実情なのだ。

 また、インド政府独特の「原材料や部品も、輸入ではなくインド国内で調達すること」という要望が強い点も外資企業を落胆させている。先述の新幹線プランについてもモディ首相直々に「できうる限り部品はインド国内で調達を」という要望があった。これは選挙や支持率をにらみ

 「私はインド国内産業への配慮や景気対策も怠りませんよ」

 という国内向けメッセージである面が強く、中国と異なり定期的な選挙があるインドらしい側面と言える。

 ただ、そうなると多くの現地製造業は各々の最終製品の品質に耐えうる原材料や部品の調達に四苦八苦することになり、前述の税制やコンプラの問題、さらには上がり続けるインドの人件費もあいまって、

 「そこまで苦労してインドに製造拠点を持つ意味はあるのか」

 という疑念の声が上がっているのも事実なのだ。

 毎年1500万人、女性の社会進出も踏まえると今後5年で1億人近い若者が労働市場に流入してくるインド。その大河のような巨大な労働者を飲み込める解が製造業であることは明白である。

 モディ政権にはその高い支持率を使ってのさらなる改革、具体的には税制の簡素化、外資規制の緩和が求められるが、その道は険しそうである。

  
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