2022年12月4日(日)

WEDGE REPORT

2019年10月16日

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露口洋介 (つゆぐち・ようすけ)

帝京大学経済学部教授

帝京大学経済学部教授。専門は中国経済、金融論。1980年東京大学法学部を卒業し、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長を歴任し、2011年に日本銀行を退職。信金中央金庫、日本大学経済学部教授を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)、『アジア太平洋の未来図』(共著)、『中国の金融経済を学ぶ 加速するモバイル決済と国際化する人民元』(共著)など。

中国は「リブラ」とその背後の米国を懸念

 中国で中銀デジタル通貨の発行が現実味を帯びてきたことの背景として、「リブラ」の存在が挙げられる。「リブラ」はフェイスブックが2019年6月に2020年前半に発行すると発表した暗号資産(仮想通貨)である。その詳細な内容はまだ明らかでないが、ブロックチェーン技術を利用して支払い決済に利用することができる。従来の暗号資産であるビットコインなどは価格の変動が激しく、支払い決済の道具としてはほとんど利用されてこなかった。これに対して、リブラは、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドなど法定通貨を発行の裏付け資産として保有し、その価格もこれらの裏付けとなる通貨のバスケットに連動する形で、安定した変動となるようにする。また、フェイスブックは全世界に24億人の利用者がいることから、一国内だけでなく国をまたいだ支払い決済手段として利用される可能性がある。

 しかし日米欧はじめ各国の政府や中央銀行は、マネーロンダリングやテロ資金の送金を防ぐためなどの厳格な規制が必要であるとして、監督規制体制が整うまで、導入には反対の姿勢を打ち出している。

 特に中国は、リブラに対して強い危機感をあらわにしている。中国人民銀行研究局の王信局長は7月に行った講演で「リブラは法定通貨を裏付け資産とするとしているが、将来的にそれに替えて貸出債権を保有するようになれば信用創造機能を持つ可能性がある。その場合、各国の金融政策に大きな影響を与える。また、リブラは支払い決済の領域だけでなく、クロスボーダー送金の領域で利用が大きく拡大する可能性がある」と述べている。

 さらに興味深いのは王信局長が「多くの人たちがリブラの背後で、米ドルが大きな役割を果たすのではないかと疑っている。価値が通貨バスケットに連動するということは実質的には米ドルに連動するということである。国際通貨システムは従来の法定通貨と米ドルをコアとするデジタル通貨が併存することになる。これは米ドル、すなわちアメリカが牛耳るということになる可能性が高い」と発言している点である。

 中国はリブラの背後に国際通貨システムにおけるアメリカの覇権維持の意図を感じているようである。なお、中国国内ではビットコインなど既存の暗号資産の取引は厳しく規制されている。リブラについても中国国内での取引は厳しく規制される可能性が高い。ここでは中国と海外との送金にリブラが利用され、中国の資本取引規制が潜脱されることや、国際通貨システム全体が米ドルの影響下にあり続けることに対する危惧が示されているのである。

 そして、王信局長は、リブラに対抗する手段として、中銀デジタル通貨の発行を急ぐこと、各国においてリブラ類似の民間のデジタル通貨発行を進めること、さらにIMFが国家主権を超えたデジタル通貨を発行することなどが考えらえるとしている。ここでは、リブラの登場が、中国において従来から検討されてきた中銀デジタル通貨の発行を急ぐことの要因となっていることが明らかにされている。

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