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中国経済はまだ成長途上にあり、依然として国内に投資余地は大きい。しかし、いままでの投資で中国はすでに世界の工場となり、製造業だけの世界GDPでは2008年に米国を超えて世界一となっている(図2)。今後とも世界の工場でありつづけるとしても、世界の製造業GDPに占める割合が長期にわたってさらに増加すると見るのは難しい。
輸出を左右する人民元相場をとっても、主要通貨に対して上昇しつづけており、2005年7月の元切り上げ以降の上昇率は31%ほどに達している。国内の平均賃金も年率10%以上上昇しており、労働集約的な製品ではベトナムなどの台頭も著しい。
今後、中国が積極的に投資と生産力を増やしても、それに見合う消費や輸出の増加がなければ高成長はしても経済のバランスが取れなくなり、供給過剰による企業不振・失業やデフレなどが生じかねない。また、無理に輸出を伸ばそうとすれば、国際的な貿易・通貨面での摩擦も大きくなり、中国経済にとっても得策とはならない。
農村の余剰人口も乏しくなっている
農村に工業を支えるだけの余剰人口がなくなってきているように見えることも、中国の成長率引き下げ要因になる。
中国の工業化は、農村地域からの労働力供給が支えてきた。また、中国の第一次産業には農業を主体に労働人口の35.6%に当たる2.8億人が従事しており(2011年中国統計年鑑、中国国家統計局)、今後とも農業人口が減少する余地はあろう。
しかし、出稼ぎに来ていた農民工が地元に戻ることで沿海都市部での労働力が不足しつつあると言われているように、足元内陸部の農村地帯から労働力を遠距離の沿海部都市に供給する余地は乏しくなってきている。
実際、中国社会科学院人口問題研究所の蔡昉所長は、人口動態変化と沿海部の急速な発展で農村部からの労働力供給が需要に追い付かなくなっており、全産業での賃金上昇をもたらしているのみならず、やがて貿易黒字が赤字に転じる可能性もあると指摘している(経済産業研究所 BBLセミナー、2011年9月12日)。
沿海部都市に十分な労働力が供給されなければ、製造業の拡大にも限界が見えてくるし、中国経済の高成長はおぼつかなくなる。もちろん、製造業の生産性が上がって、より資本・技術集約的な産業構造に変化していけばよいのだが、それには時間もかかる。