2022年11月30日(水)

中国 覇権への躓き

2019年11月1日

»著者プロフィール
著者
閉じる

加茂具樹 (かも・ともき)

慶應義塾大学総合政策学部長・教授

専門は現代中国政治外交。1995年慶應義塾大学総合政策学部卒業。2015年4月から同校総合政策学部教授に。16年10月から18年10月まで、在香港日本国総領事館領事。主著に『十年後の中国』(一藝社)、『現代中国の政治制度』(慶應義塾大学出版会、共編著)。
 

 力の体系に注目すれば、中国は海洋への軍事的な影響力の拡大を進め、渤海や黄海、東シナ海そして南シナ海といった近海だけでなく、西太平洋からインド洋へと広く展開するようになっている。もはや中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)を構築する空間は、第一列島線、第二列島線を越えて、南太平洋へと広がっている。

 利益の体系に注目すれば、中国は世界第二位の経済大国となり、国際的なプレゼンスが飛躍的に高まっている。例えば、中国の政府系金融機関による融資残高は世界銀行グループのそれを上回る。中国は、かつて「世界の工場」と言われてきたが、すでに「世界の投資者」としての存在を確かなものにしている。

 力と利益の体系において存在感を強めた結果、共産党による一党支配体制は発展途上国が追求すべき統治のモデルとして関心を集めるようになった。これは価値の体系における存在感の強まりといってよい。世界の6割を超える国家は権威主義的な政治体制であり、そうした体制の下で生活している人々も世界の人口の6割を超えている。権威主義国家の政治指導者や社会の中国の統治モデルに対するまなざしは、日本をはじめとする自由で民主的な社会からのそれとは異なる。

35年前から変わらぬ重要な演出「閲兵」

 今回の建国記念日の大規模な軍事パレードは、前述の三つの体系のうち、共産党指導部が「強国」の「力」を内外に披露するための重要な機会であった。

 パレードの中で中国は、米国本土を射程に入れる最新鋭の多弾頭型大陸間弾道ミサイルを初めて公開するなど新型兵器を並べ、その軍事力を内外に示した。またパレードは、似たような体形の勇壮で華麗な装いの男女の軍人が、この式典のために編曲された「鋼鉄の潮」と題する行進曲を人民解放軍の軍楽隊が演奏するのにあわせて、堂々と整然と行進した。

 この軍事パレードにおいて最も重要な演出の一つが、習近平による閲兵である。中山服を着込んだ習近平は、天安門の楼上で建国70年を祝う演説を終えた後、黒塗りの車に乗り込んで閲兵した。車上から、共産党中央軍事委員会主席であり国家中央軍事委員会主席である習近平は、「同志諸君、ご苦労」と整列する兵士に声をかけ、兵士たちは「主席こんにちは」、「人民のために服務を!」と声を発していた。

 こうした演出は、1984年の中国建国35周年以来の暦年の軍事パレードでのそれを踏襲したものであった。グローバルガバナンスの改善と発展に貢献することを公言するのであれば、こうした手段をつうじて「強国」を誇示することはふさわしくない。いかにも古めかしく、35年前から時間が止まったような発想だ。

 この軍事パレードには、共産党指導部の統治観が反映されている。共産党指導部はやはり力を信奉しているのである。習近平も前述の祝賀大会で、「団結は鉄、団結は鋼であり、団結こそ力である。団結は中国人民と中華民族が前進途上のあらゆるリスク、挑戦に打ち勝ち、勝利から新たな勝利へと絶えず進むための重要な保証である」と語った。

新着記事

»もっと見る