WEDGE REPORT

2019年11月12日

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 これはチリだけの話でない。ラテンアメリカ全体の通弊だ。例えばブラジルでは、2003年、左派のルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領が政権を握った。同大統領は「ボルサ・ファミリア」という名のもと、貧困層に対する補助金支給政策を進め、多くの国民を貧困層から中間層にかさ上げした。2011年、ルーラ氏を継いだジルマ・ルセフ氏もその政策を引継いだが、経済が暗転、かつて高成長に踊ったブラジル経済は一転してどん底をたどっていく。

 それと共にルーラ氏、ルセフ氏の汚職疑惑が表面化、何のことはない、貧困層の味方といって華々しく労働党から大統領に上り詰めたリーダーだったが、やはり彼らも富を懐に入れていた。2018年、ジャイール・ボルソナロ氏が新たに大統領に就任した裏にはこういう事情がある(拙稿『ブラジルにも「極右政権」が誕生か』参照)。

 ボリビアでも、先住民代表として初めて大統領に就任したモラレス氏は、先住民の権利拡大等を推し進め高い支持率を誇っていたが、今回の選挙は違った。国民は、モラレス氏は結局、権力に執着しているだけでないのか、と思い始め、同氏は打って変わって低い得票率に泣く。背景に、2010年代半ばに終焉を迎えた一次産品ブームがあった。

 チリは、南米の優等生だ。1970年代、ピノチェット軍事政権の時、他に先駆けて国家主導経済から開放型自由経済に移行した。1980年代、ラテンアメリカは累積債務危機に襲われたがチリはこれも難なく乗り切った。1990年の民政移管後は一次産品ブームに乗り、高成長を続けた。しかし、その陰で所得格差が確実に広がっていく。

 民政移管後、中道左派政権が4代続き、その後、中道左派、中道右派が交互に政権を担ったが、チリでは右派、左派を問わず、経済は新自由主義が維持された。チリは国土が狭小だ、貿易にかけるしかない、国を開き、経済を自由化することが繁栄の基だ。どの政権もそう考えた。

競争至上主義の新自由主義経済は格差拡大を生む

 しかし、競争至上主義の新自由主義経済は格差拡大を生む。経済は優等生だったが、社会のひずみは拡大するだけだった。格差の指標であるジニ係数は0.46にまで上昇。ジニ係数は1に行くほど格差が広がり、0.4以上は危険とされる。チリはOECD諸国中、格差が最も大きい国となった。それでも経済が良好なうちは問題は表面化しない。経済が傾いた時、国内の矛盾が一気に吹き出してくる。チリもボリビア等他のラテンアメリカ諸国と同様、経済低迷が今の社会不安の原因となった。

 ラテンアメリカが期待の星ともてはやされたのは一次産品ブームゆえだった。ブームが過ぎ去れば社会が抱える矛盾が表に出る。新たな中間層の形成により、その矛盾は克服されたやに見えたがそうではなかった。結局、ラテンアメリカは、そこを解決しない限り発展は望めない。そことは、「社会の分断」だ。分断された社会を如何にまとめあげるか。一次産品ブームがあろうと、なかろうと、社会が一致団結して発展に向かっていけるような社会が創られない限り、ラテンアメリカの繁栄はいつになっても砂上の楼閣なのだろう。

  
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