2024年11月22日(金)

ちょいとお江戸の読み解き散歩 「ひととき」より

2019年12月26日

上左(5)、上右(6)、中左(7)、中右(8)、下左(9)、下右(10)

 3人の髪型は燈籠鬢(とうろうびん)に潰し島田で、衿はゆったりめに色っぽく描いています。豊ひなちゃんの家紋の桜草(5)はかんざし(6)にもあしらいが。おきたちゃんが持つ団扇(7)とかんざし(8)には桐の紋、おひさちゃんの家紋の三つ柏は着物の地模様(9)とかんざし(10)に描かれ、どれもしゃれています。

 また、このお三方、それぞれに個性がおありです。豊ひな師匠はすらりとお美しい寛政美人。おひさちゃんは手ぬぐいなんか肩にかけておちゃっぴいで、お鼻が少しジャンプ台。浅草のおきたちゃんは、少し気が強かったとか、お鼻も強気の鷲鼻さん。浮世絵師の鳥居清政さんや勝川春潮さんも特徴を捉えてお描きになり、おきたちゃんたちが実在したことが分かります。

 作品タイトルの隣に3人の名前が刷られていますが(1)、浮世絵に関するお定めが強化され、風俗を乱すという理由から一般人の名前を浮世絵に刷り込んではならないとなり、発行当初書き添えられていた、おきたちゃんたちの名前が消されてしまいます。ところが反骨の絵師、歌麿さん、「名前さえ描かなきゃいいんだな」とばかり、別のおきたちゃんの浮世絵では、絵解きの判じ絵※(12)を添えました。その「高名美人六家撰」に描かれているのは、「菜」っ葉が「二わ」、その下は「矢」、海の「沖」、「田」んぼで、なにわ・や・おき・た、「難波屋のおきた」ちゃんです。
※絵を読み解いて答えを導き出すなぞなぞのこと。江戸時代の庶民に親しまれた

左(12)、右(1)

 江戸時代は平和が長く続き、その平和を土台に女性が活躍していました。社会で働くのは当たり前、しかもお江戸は地方からの男衆が多かったこともあり、女性がとてもモテたといいます。

 お江戸のきらめく女性たちの応援団長、歌麿さん、さすがです。

atelier PLAN=地図制作 写真を拡大

【牧野健太郎】ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプロモーション プロデューサー、東横イン 文化担当役員。各所でお江戸にタイムスリップするような講演が好評。

【近藤俊子】編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。

●ボストン美術館蔵「スポルディング・浮世絵版画コレクション」について
米国の大富豪スポルディング兄弟は、1921年にボストン美術館に約6,500点の浮世絵コレクションを寄贈した。「脆弱で繊細な色彩」を守るため、「一般公開をしない」という条件の下、約1世紀もの間、展示はもちろん、ほとんど人目に触れることも、美術館外に出ることもなく保存。色調の鮮やかさが今も保たれ、「浮世絵の正倉院」ともいわれている。

NHKプロモーション=協力

  
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◆「ひととき」2019年10月号より

 

 

 



 


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