欧州自動車業界はこれに先んじて対応している。19年6月、VW、BMWなどは、スウェーデンの電池スタートアップのノースボルトに、10億ドル(約1080億円)を投じた。これを通じて、持続可能かつカーボンニュートラルな電池製造を目指す。9月には同社とVWの合弁で、リチウムイオン電池の工場をドイツに設立することを発表。年産16ギガワットアワーを見込んでおり、23年ごろにはVW向けの電池供給を開始する見込みだ。
第二に、VWの大胆なEV転換の背景には、「ドイツ国内のエネルギー政策上の事情もある」(自動車業界関係者)。ドイツは風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーの導入に熱心で、現在では総発電量の40%超(フラウンホーファー研究機構調べ)を占める。しかし、再エネの発電量は自然条件で変動し、安定しない。そのため、再エネで発電した電気を貯める電池産業の国内における育成を狙っている。
第三に、VWの戦略を考える上で欠かせないのが中国市場の存在だ。同社は18年、全世界で約1083万台の自動車を販売しており、そのうち中国市場が約420万台を占める。同社は20年には、前述した中国の2工場に加え、合肥にある安徽江淮汽車集団(JAC)との合弁会社におけるEV生産と合わせて、約70万台のEVを中国で生産できることになる。
中国は世界最大の新エネルギー車(NEV)市場だ。13年には約1万7000台だったNEVの販売台数が、18年には約126万台に拡大した。
しかし、中国汽車工業協会(CAAM)によれば、19年8月のEVの販売台数は前年同月比6%減の6万9000台となっており、EV市場の落ち込みが報じられている。米中貿易摩擦に加えて、自動車産業全体の低迷、中央政府によるEV購入補助金のカットにより、中国におけるEVマーケットは足踏みしている。
その状況下でなぜVWは大々的なEVへの転換を行うのか。これについてみずほ銀行法人推進部の湯進(タンジン)主任研究員は中国市場ならではの事情を次のように語る。
「中国の自動車市場には、タクシー、バス、物流、特殊用、公用など非個人用車市場が1000万台あり、それらは中国の中央政府や地方政府の指示でガソリン車からNEVに置き換えることができます。例えば、タクシーは中国全土で140万台もありますが、ほとんどが政府系企業や国有企業による運営です。6年かけて1000万台を代替するなら、年間150万台のEV需要が生まれる計算になります」
この需要を最初に取り込めれば、世界的なEV市場の立ち上がりに際して最高のスタートダッシュを切れる。これまでも中国の「官需要」を取り込みつつ、中国市場を制してきたVWの戦略である。