なお、世界の有力クラフトビールを買収するのは、キリンだけではない。サッポロビールは17年、サンフランシスコの名門「アンカー・ブリューイング・カンパニー」を約95億円で買収。世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ブリュッセル)も、シカゴの「グースアイランド」を買収した。いずれも、ビール類市場の縮小が続く日本での販売に乗り出している。
中小メーカーとともに挑む
キリン・クラフト事業の中核であるSVBの二代目社長、島村宏子は言う。
「いまはクラフトビールの勢いに乗り遅れないようにするのが大変。早い判断は求められています。市場を成長させるため、同じクラフトビール間、そして地域などとの連携が大切」
キリンは、その年に収穫した国内産ホップを使ったクラフトビールイベント「フレッシホップフェスト」を15年から毎秋、開催している。5回目となった19年の開催期間は9月から11月の3カ月間で、参加したクラフトビールメーカーは約100社。国内約400社の4分の1に相当する。100社は国産ホップを使用したビールを醸造して、参加飲食店(約1500店)のどこかで供した。
ホップ農家も参加していて、原材料の生産者からメーカー、料飲店とを巻き込んで、連携を構築させている。
こうしたなか、キリンが展開しているのが、4種類のクラフトビールを提供できる「タップマルシェ」という簡易型ディスペンサー。クラフトビールは3リットルのペット容器に入るが、ペット容器を簡単に交換できるのが特徴だ。
2017年春から一都三県で試験運用を始め、18年春からは全国に展開。「(19年末までに)1万3000軒の飲食店に導入されていて、いまも増え続けている」と島村。
山田によれば、「全国に飲食店は約60万軒あり(16年)、46軒に1軒はタップマルシェが入っています」と話す。キリンが扱うSVBやブルックリンの商品だけではなく、現在は13社のクラフトビールメーカーの商品も、タップマルシェのラインアップに入っている。
クラフトビールに限らず、中小メーカーが自社商品を広く展開しようとしても、配荷するのがどうしても難しい。商品化はできても、ロジスティクスまでは手が回らない。まして、新鮮さが求められるビールとなると、なおさらだろう。
この点、タップマルシェではキリンの物流網が利用される。地方であっても、クラフトビールは、キリンによって飲食店へと配送される。キリンは、”利用料”をメーカーから受ける仕組みだ。