ところで、後に続く世代により大きな負担をツケ回すと言えば、わが国の財政状況もまた同じである。結局、これまで社会保障や財政においては、少ない収入で多額の支出を賄い、その差額を勤労世代の負担や公債発行することで制度を無理やり維持してきた。
こうしたやり方は、繰延された負担を負わされる勤労世代や将来世代が順調に増えている局面においては問題が露呈することもなかった。しかし、少子化が進行することでそうした「負担先送り型ビジネスモデル」の矛盾が白日の下に晒されたのである。
まるで将来世代の財布からの巻き上げ
ところで、財政や社会保障制度等政府を通じた世代間所得再分配の大きさはどの程度であろうか。
拡大画像表示
表1は厚生労働省が公表している『所得再分配調査』という統計からの抜粋である。同表によると、60歳以上で当初所得を再分配後の所得が上回っていくことが分かる。特に、65歳以上の高齢世代は、当初所得は34歳以下世代を下回るものの、再分配後は34歳以下世代を上回る所得水準を享受している。こうした高齢世代が受け取る給付の大半を占めるのは年金給付であり、65歳以上では200万円を超え、給付総額の6割から7割程度を占めている。つまり、現在のわが国においては、若い世代から高齢世代への年金を通じた大規模な所得再分配の存在が政府の統計からも裏付けられる。
さらに、同表の総数の欄を見ると、平均的な日本人の当初所得は445.1万円、再分配所得は517.9万円となっている。再分配所得が当初所得を上回っているということは、拠出よりも受取が大きいことを意味している。経済学に「ただ飯はない」という原則がある通り、この差額は天から降ってきたものではない。国債という課税の繰り延べ手段を使って将来世代の財布から有無を言わさず巻き上げているのだ。
あるべき改革の姿とは
政府は「社会保障・税一体改革大綱」を今年2月に閣議決定し、3月には2014年4月から8%、さらに2015年10月から10%に引き上げる消費税増税法案を閣議決定した。
しかし、現行の社会保障制度の存続、さらに言えば財政を含めた受益負担構造を温存したままでの消費税率の引き上げは、現在の高齢既得権世代の逃げ切りを許すだけの結果となってしまう可能性が非常に高い。
実際、社会保障・税一体改革大綱にある消費増税の使途を見ると、子ども・子育てに0.7兆円程度、医療介護年金等に2兆円程度と高齢者向けの支出額の方が3倍近くも大きい高齢者優遇である。そもそも消費増税の負担に関しても人生の先行きが長い若い世代ほどより多くを負担することとなるため、野田総理が連呼した「将来世代に負担を残さない」というフレーズは、社会保障制度の崩壊しつつある現実を覆い隠すための論点のすり替えに過ぎない。