それでも、今回の訪米で野田総理が達成したかった目的は何だったのかが、結局のところよく分からない。共同宣言の内容は、包括的で未来志向のものではあるが、実際の内容は、既に担当閣僚レベルで全体的な方針が打ち出された政策(すでに実施に向けて日米両政府が動いているものもある)を追認したに過ぎないものも多い。
また、ホワイトハウスから発表された日程によれば、野田総理のオバマ大統領との会談時間は昼食を交えての議論を入れても午前11時40分から午後2時まで。逐語通訳が間に入ることを考えれば、会談時間は正味1時間半もない。さらに、ワシントン到着が4月29日、出発が5月1日、と余裕のない日程。野田総理はオバマ大統領に会うために「だけ」ワシントンにやってきた、というのが率直な印象だ。
日本の存在感を示す機会を棒に振った
それでも良いではないか、という意見もあるかもしれない。確かに、首脳同士が顔を合わせて諸問題について率直に議論するのは、そのこと自体に意義がある。しかし、今回の野田総理による訪米は、アメリカで低下しがちな日本の存在感を示す絶好の機会だった。特に、今年はワシントンに日本から寄贈された桜が植樹されてから100年を迎える記念すべき年であると共に、東日本大震災から1年が経過し、日本の復興をアピールする格好のチャンスだった。
オバマ大統領その他の主要閣僚と会談するだけでなく、例えば、米日商工会議所や日米協会などで日本の震災後の復興について演説する、日本人選手が在籍する野球チームの試合を観戦に行く、大学で米国人学生とアジア太平洋地域における日米同盟の将来のビジョンについて議論する、など日本の総理自らが日本という国のPRマンとなるチャンスはいくらでもあった。訪米の際に、自らが持つ日本の将来に向けたビジョンについてのメッセージをしっかりと発信することで「外交に強い総理」というイメージを作る、あるいは総理自身の人となりを米国で知ってもらうという選択肢もあった。しかし、2泊4日というゆとりのない日程を組んだことで、せっかくの訪米という機会を棒に振ってしまった。
訪米時に1週間滞在した習近平
今年の2月に中国の習近平・国家副主席が訪米した際には、米国に1週間近く滞在し、ワシントンのほかにカリフォルニア州、アイオワ州などを訪問した。ワシントン滞在中もバイデン副大統領、クリントン国務長官、パネッタ国防長官など主要閣僚との会談に加えて、議会の主要議員との懇談を行い、米中経済評議会(米中の経済人が集う会合)で米中関係についてスピーチも行った。習氏の米国訪問は、政策面では実りあるものではなかったが、今年秋の指導部交代に向けて「習近平という人物を米国にアピールする」という目的はとりあえず果たしている。単純に比較はできないが、考えさせられる。
また、野田総理がオバマ大統領と過ごす時間が、会談の時間だけなのも気になった。習氏訪米時はカウンターパートのバイデン副大統領がアイオワ州やカリフォルニア州訪問を含めた全日程に同行した。