2024年12月5日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年3月12日

 トランプ大統領は、2月24日から2日間、インドを公式訪問し、モディ首相の地元、グジャラート州で大歓迎を受けたうえで、モディ首相と首脳会談を行った。

Igor Vershinsky/iStock / Getty Images Plus

 トランプ訪印の目的の一つは、中国を念頭にインドとの防衛関係を強化することであった。トランプはモディとの共同記者会見で、「自由で開かれたインド太平洋を守る」と述べ、米、印、日本、オーストラリアの4か国の連携を強めることを強調したほかに、インドに対し対潜ヘリなど30億ドル規模の米国製兵器を輸出することで合意したと発表した。4か国の連携強化は日本にとって歓迎すべきことである。

 しかし、トランプ訪印の主たる目的は米印の2国間関係の強化であっただろう。30億ドルの兵器輸出は中国を念頭に置いたものであるとともに、米印の防衛協力を強めるものである。ほかにトランプは記者会見で、米国がエクソンモービルを通じてインドにLNGを供給することを発表した。

 米印の2国間関係で最も重要なのは貿易取り決めである。米国は2018年でインドとの貿易で輸出342億ドル、輸入515億ドルと、173億ドルの赤字であった。貿易赤字の削減に執念を燃やすトランプとしてはこの赤字を減らしたいところである。

 他方で、インドは途上国として保護政策をとっており、平均17%(2018年)の高関税を課している。モディ政権は自国産業の保護政策を2期目の主要課題としている。米政府は 2019年6月、インドに適用していた途上国向けの一般特恵関税制度を打ち切り、インド市場の開放を要求したが、インドはこれに対し米国からのリンゴ、クルミなど28品目の関税を引き上げる報復措置をとった。このような事情を背景とした米印の貿易交渉は容易には進みそうにない。トランプとモディは、2月25日の共同記者会見で、大型の貿易交渉を始めることを明らかにしたが、交渉が難航することは必至だろう。

 米印2国間関係でいまひとつ頭痛の種は「5G」への対応である。インドは10億人を超す携帯電話の利用者がいるモバイル大国だが、市場シェアは中国が圧倒的に大きい。米国はインドにファーウェイ製品の締め出しを求めているが、インドは対中配慮もあり態度を決めかねている。トランプは記者会見で「米印は5Gの安全性の重要性についても議論した」と述べたが、どのような結論になるかは定かでない。

 トランプが今回のインド訪問で11月の大統領選挙を意識していたことは間違いない。30億ドルの防衛取引は成果として誇るだろうし、貿易取り決めでも進捗ぶりを強調したいところだろう。もう一つ指摘されているのは、米国内の400万人のインド系米国人の存在であり、2016年の大統領選挙では8割がクリントンに投票したと分析されている。全人口の 1%強に過ぎないが、ビジネスで成功した富裕層が多いと言われ、トランプとしては今回インドで大歓迎されたことを強調してインド系米国人にアピールしようとするだろう。

 トランプとしては、大統領選挙を念頭に、今回の訪印の成果を最大限に強調したいところだろう。

  
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