「世界では4割近い人たちが豚肉は食べません。こうした人たちをお客様として取り込みたいのか、取り込みたくないのかという問題なんです」
「ハラール」など多様な食の情報を発信する「フードダイバーシティ」の守護彰浩・代表取締役は講演会に招かれるたびにこう強調する。日本を訪れる外国人、いわゆるインバウンドが大きく増えている中、「日本人のように何でも食べられるのは世界ではむしろ珍しい」と守護さん。
イスラム教徒16億人、ベジタリアン9億人、世界人口約70億人の少なくとも36%は豚肉が食べられないのだ。
千葉大時代にイスラム教徒の友人ができたことがきっかけで、彼らの文化に興味を持ったという守護さん。その後、楽天に入社し、多数のイスラム教徒の社員と共に働くことになる。そこでも、彼らがいつも話していたのが「食べるお店がない」ということだった。そんなイスラム教徒たちへ情報を発信するメディアをつくろうと起業を決意し、2014年に「フードダイバーシティ」を立ち上げた。
「ハラール」というとイスラム教徒が食べる特別な料理という印象が強い。だが、和食や中華などと並んで「ハラール料理」というものがあるわけではない。ハラールとはイスラム教の戒律で「許されたもの」という意味。魚介類や野菜、果物はハラールだが、牛や鶏などはイスラムの教義にのっとった屠畜(とちく)方法で処理しなければならない。イスラム教徒が屠畜処理する必要があるのだ。
一方で、イスラム教徒が口にできないもの「ハラーム(禁じられたもの)」がある。豚肉や豚由来の成分、アルコールなどだ。
こうしたハラーム食材を使っていないものが「ハラール」食なのだ。つまり、本来は、和食でも、中華でも「ハラール」が存在する。
ハラールお好み焼き
「広島に来て10年以上、広島のソウルフードであるお好み焼きを食べることができませんでした」
そう広島市立大学国際学部准教授のヌルハイザル・アザム・アリフさんは振り返る。マレーシアやインドネシアから広島を訪れる観光客の多くはイスラム教徒だ。
彼らは名物である「広島お好み焼き」を食べたいが、手を出せない。お好み焼きには豚肉が使われているからだ。海鮮お好み焼きなどを頼めばよいと思われるかもしれないが、豚を焼いた鉄板で焼いたものや、ソースの原料にハラームが使われていてもダメなのだ。「ハラール」にするには、鍋など調理器具を分け、食器も別の物を使わなければならない。