今年2月頭に恒例の年に1度の「インド予算案」が発表され、税制面では大方の予想通り個人所得税、法人税の減税が決まった。
従来3段階の累進課税だった個人所得税は5段階になり、最高税率である30%が適用される所得層を従来の年収100万ルピー(約154万円)から150万ルピーに引き上げることが可能となった。法人税については昨年の9月に発表された減税を確認する形となり、従来の25%から22%に税率を引き下げることが可能となった。
「可能」という言い方になってしまうのは理由がある。この新税率は旧税率との「選択制」であり、新税率を使う場合には従来可能だったいくつかの税務上の恩恵を放棄する必要がある。そのためまずは「どちらが得か」をシミュレーションする必要があり、前述の累進課税の段階の増加と合わせ比較的シンプルだったインドの直接税が少し複雑化した形になるので注意が必要だ。
それ以外にもインド国内での製造拠点の設立を促すため、携帯電話の部品などの基本関税が引き上げられることになった。これは数年前から続く「make in India」の流れの一環だろう。
また、従来より外資系企業を中心に悪名高かったインドの「配当税」は廃止されることとなった。
これはインド独特の税制であり、配当を「払う」側である企業が配当金額の約20%を税金として負担するものだ。配当を「受け取る」側にも当然所得税の負担があるため、この「配当税」は以前より二重課税ではないかとの批判があったのだが、ようやく廃止にこぎつけた形だ。
特に外資企業にとっては、インドの現地子会社がそのビジネスで積み上げたキャッシュをどのような形で本国に還流するかが従来より大きな問題であり、インドにおいて移転価格上の問題が生じない「配当」という選択肢が生まれたのは吉報と言えるのではないだろうか。
さて、この昨年から続くこの減税の流れだが「モディ政権の焦り」と見る向きが多い。
昨年4月の総選挙でぶち上げた6.8%という経済成長はとても達成できそうになく、インド最大の祭り「ディワリ」が過ぎれば回復すると言われた景気も回復する兆しがなく、次は根拠なく「年があければ」と言われていたものの、結局自動車産業中心に不景気からの脱出口は見えない。
そのため景気へのテコ入れとして、今回の予算案では個人所得税を中心に減税が発表されるとある程度は予想されていたのだが、もう一つの景気対策の柱として期待された政府の財政出動は大方の予想範囲内で目新しいものはなかった。これは財政規律に数値目標を課したモディ政権自身の方針が足かせになった形だが、実際ここ数年の相次ぐ減税策で政府歳入は減少しており「打てる手が限られてきた」というのも実際のところである。
そして株式市場も翌日には平均株価が2%以上の大幅下落という形でこの予算案への失望を示した形となった。