インド経済を読む

2020年2月28日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

インドにも忍び寄るコロナ騒動

 そしてその足元がふらついているインド経済にも日本同様「コロナ騒動」がヒタヒタと忍び寄っている。

 新型コロナウィルスの患者数は2月23日現在、インド全土で3名と非常に少ないが、検査体制が脆弱なインドにおいて本当に患者数がこの程度かどうかは疑わしい。現地で報道を見ていても「コロナウィルスに感染するのは中国人がコウモリやヘビを食べるからだ」とのオカルト的な方向での内容が多く、インド人の間での危機感はまだ薄いように感じる。一方でインド政府は危機感を感じているのか、中国からインドへの入国は事実上禁止という強硬措置をとり、日本からの入国も体温検査と自己申告とは言え問診票の提出が必須となった。

 インドと中国はもともと国境紛争やパキスタン問題から仲が良くないので、中国からの人の往来が仮に途絶えたとしても、インバウント需要が途絶えた日本と違いその経済への影響は限定的だと言われる。しかし果たしてそうだろうか。

 実際、インドに住んでいると彼らの中国への悪感情を感じることが多い。

 私を見て「中国人か?」と聞かれて、私が「日本人だ」と答えると、怪訝な顔をしていたインド人が急にニコッとして「そうか!俺は日本人は好きだが中国人は嫌いだ」と言われたことは1度や2度ではない。実際、ビザや各種申請手続きにおいても中国人や中国資本の場合は、追加資料を大量に要求されたり、必要書類を揃えても承認が非常に遅れたりすることが多いのだ。

 しかし、だからと言って「インドと中国の経済の結びつきが弱い」のかというと全くそんなことはない。

 VIVOやOPPOと言った中国系メーカーの携帯電話は競争激しいインドスマートフォン業界でもそのシェアを伸ばし続けている。「安くてそこそこの性能」のものを好むインド市場に、中華系スマホが上手く入りこんだ形だ。前回のAmazonの記事でも、彼らの人気ゆえにAmazonが新機種を独占販売したことが大きな社会問題となったことを取り上げた。

 成長著しいグジャラート州の日本企業専門の工業団地の隣には、中国企業専門の広大な工業団地が開発されることとなっている。製造業は大きな雇用を生むのでグジャラート州政府も歓迎だろう。

 米国を中心として、世界各国に圧力をかけている5G通信における「ファーウェイ締め出し」の動きにもインドが同調する動きはまだない。ファーウェイ側もインド経済界とは良好な関係を築くことができていることを何度もアピールしている。

 つまり、表面上は「犬猿の仲」となっているインドと中国は、経済的にはもう切っても切れないぐらい強く結びついている。彼らはお互いに「あいつは嫌い」と言いながらも、実利があるのであれば裏でしっかり手を繋ぐ、そんなしたたかな関係なのだ。実際、2月1日の予算案発表後のインド株式市場の大幅な下落時も、市場関係者は「中国のコロナウィルス騒動も原因の一つ」とコメントしていた。

 そんな密接な関係になりつつある中印経済関係において、中国からの人の往来がシャットアウトされたのであれば、中国企業の運営や新規進出に悪影響を及ぼし結果としてそれは弱っているインド経済に暗い影を落とすことになるだろう。

 インド経済が昨年から続くその低迷から抜け出すにはまだまだ時間がかかりそうだ。

  
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