われわれ野球記者はいま、連日オープン戦の無観客試合へ足を運んでいる。これまでにもスタンドが無人の球場でゲーム取材をしたことは何度かあるが、今回は新型コロナウイルスという病原菌が原因。おかげで取材現場はいつも物々しい雰囲気に包まれている。
すべての球場の受付では、報道陣用の名簿に社名と氏名を記帳したら、必ず両手をアルコール消毒し、検温を受けなければならない。東京ドームでは係員が赤外線温度計を取材者の額にタッチ。ZOZOマリンスタジアムでは体温計を耳の穴に入れるよう報道陣に求め、熱がないかどうか確認していた。
ZOZOマリンではさらに念を入れて、入場許可が出たら「検温済」という小さなカードを渡し、取材パスのビニールケースに入れておくよう要請している。選手や首脳陣など、取材相手の目につくようにとの配慮だ。
オープン戦序盤のうちは数球団が報道陣に要請していたマスク着用も、いまでは全12球団で義務化された。WHO(世界保健機構)は「咳やくしゃみなどの症状がないのに公共の場でマスクをする必要はない。またマスクをしていないからといって感染する可能性が上がることもない」という指針を公表。私もその通りだと思うが、報道陣全員がマスクをしているのに、ひとりだけ〝素顔のまま〟で取材するわけにもいかない。
仕方なく紙製の使い捨てマスクを着用していたら、そろそろ残り少なくなってきた。底を突いたら球場に入れてもらえなくなるので、57歳の手習いでキッチンペーパーを使ったマスクをせっせと手作りしている。コロナのおかげで野球の取材もやりにくくなったものだ。
無観客試合も観客同士の感染を防ぐためというコロナ対策の一環だが、選手たちの間では「変な感じ」「違和感がある」「鳴り物がないと寂しいね」という声が多い。「こうなると、ふだん試合の雰囲気はお客さんが作ってくれてるんだなあ、と改めて感じる」というヤクルト・青木宣親のコメントは、選手の複雑な心境を適確に言い表している。
一方で、「別に気にしてないよ」という外国人選手も少なくない。昨季チーム最多の33本塁打、95打点をマークした楽天のジャバリ・ブラッシュは「マイナーリーグ時代、ほとんどお客さんのいない球場で試合をしたことは何度もあったよ。まったくの無人ではなかったけどね。今回は仕方がないことだし、何とも思ってない」とクールに話していた。
そうした中、この人らしいな、と思わせたのが巨人・原辰徳監督の発言である。2月29日、東京ドームで初めて行われた無観客試合のオープン戦の感想を求められると、いつものキッパリとした口調でこう言ったのだ。
「集中は一緒です。戦うスタイルとして変わっているようでは話にならない。われわれにはわれわれの中での勝負がありますから。無観客だからどうこうではないと。幸いテレビ中継もあるし、そういう姿を放映してくれている。ファンはテレビで注目して見てくれていると思いますよ」
相変わらず照れも衒いもない。プロ野球が未曾有の国難に直面していてもなお、原辰徳はやっぱり原辰徳だな、と改めて感じさせるセリフだった。ほかの11球団の監督たちも原監督のように、もっとプロ野球のテレビ中継を見るようにとファンにアピールしてほしいと思う。
〝天下のプロ野球〟も一昔前と違い、地上波では滅多に中継されず、CS放送やインターネットで見るには料金を払わなければならなくなった。が、逆にこういう時代だから、ましてやプロ野球が未曾有の危機に見舞われているいまだからこそ、もっと野球を見てほしい、とチームを預かる監督がファンに向かって積極的に発信していくべきだろう。かつての長嶋茂雄氏、先月亡くなった野村克也氏が監督だったころには、常にプロ野球人気を盛り上げることを意識した発言を繰り返していたものだ。
NPB(日本野球機構)はすでにシーズンの開幕延期を視野に入れ、その場合はどのように今後の日程を見直すべきか、内々で検討に入っているという。1999年以来となるダブルヘッダーの導入、当初は中断するはずだった東京オリンピック期間中の公式戦開催、143試合制から130~135試合制への削減、さらにはCS(クライマックスシリーズ)の中止など、様々な代替プランが俎上に挙げられていると聞く。
今月20日の開幕までに現在のコロナ禍が終息しているとは考えに