政府は全員、下船させるべきだった
――では、日本政府の対応はいかがでしたでしょうか
山本 こうした現状認識も準備もないまま、対応したことが残念な結果を生みました。ただ、すでに述べたようにアウトブレイク発生防止の責任という観点からは、クリティカルな、最も大事な時期はクルーズ船の横浜入港前にすでに終わっていました。つまり、日本には重要な役割を演じる機会はほとんどなかったのです。その点では今回の批判は日本にとって誠に厳しく不公平であったと言えます。
それでも今回の政府の対応には多くの失敗がありました。政府は横浜入港から間を置かずに有症状の方だけでなく、原則的には乗員乗客すべてを、汚染した船から引き離す必要があったと思います。しかし、この時点で、国はいわゆる「水際」対策にこだわったようです。現状認識の分析も不十分で、甘かったといえます。
実際、検疫に入った後ですら、クルーズ船に乗り込んだ神戸大の感染症の専門家が、安全ゾーンと感染危険ゾーンの区分けができていなかったと指摘していました。感染症に対する対応は、後手にまわっていたのではないでしょうか。それ以上に、船内での感染者の把握にも手間取り、検査能力の貧弱さも大いに批判を受けました。時間がかかり過ぎ、さらに感染の拡大を招いたということになります。
――ではどうすればよかったのでしょうか
山本 多くの外国人を含む、3500人の乗客乗員に対し、下船は無理だったという意見もありますが、やり方さえ考えればそれは不可能ではなかったと思います。犠牲者を極力減らす意味からもやるべきでした。検疫が始まってからも感染が続いていたことは、乗船した検疫スタッフの中から複数の感染者が出たことからも明らかです。人々の生命を守るのが政治の役目なら、やれないことは無いはずです。
ちょうど時をほぼ同じくして、香港から出港後に同じく感染者が見つかったオランダ船籍のウェステルダム号が、カンボジアのシアヌークビルに寄港しましたが、ここではカンボジア政府が乗客の属するそれぞれの国と非常に迅速に交渉し、うまくことを収めました。わが国が犯した公衆衛生リスク上のミスを批判する国際的な声があるのと対照的な対応です。