3月6日、OPECプラス(OPEC加盟国とロシア等の非加盟国)の閣僚級会合が、ウィーンで開かれた。現行の減産合意は3月末で期限切れとなるが、さらに1日150万バレルの減産を主張するサウジと、60万バレルの減産しか認められないとのロシアが対立し、決裂した。その結果、北海ブレントの先物価格は1バレル45ドル急落、その後も下落が止まらず30ドル台にまで低落している。新たな減産合意ができなかったのみならず、これまでの減産合意も反故になったからである。OPECプラスの枠組みは昨年7月に常設化が合意されたばかりであるが、今後どう続いていくのか、今は見通しが立たない状況になったと言える。
石油価格が今後、下落傾向になることは確実であろう。コロナウイルスの影響で、株も商品市場も下落し続けているが、商品の中ではこれまでも原油の下落幅が最も大きかったが、その状態が今後も続くと思われる。
日本は消費国であるから、原油価格が安くなることは歓迎できることである。Bloombergの石油ストラテジストJulian Leeは、3月8日付けワシントン・ポスト紙掲載の論説‘OPEC s Epic Fail Will Hurt All Oil Producers, Even Russia’で、「中国やインドのような国が戦略的在庫を積み増すことはありうる。両国とも米国の戦略石油備蓄のようなものを望んでいる。中国はすでに備蓄の積み増しをしているようである」と指摘している。日本も在庫積み増しの余地があれば、考慮すると良いであろう。
今回の決裂は、サウジおよびロシアには痛手になると思われる。
サウジについては、サウジアラムコの株は3月8日、サウジ市場で9%も下落し、公開価格割れになった。年内にも海外市場に上場したいというのがサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)の考えであると漏れ聞こえていたが、この実現が危ぶまれる状況になっている。これから得られる資金を使って国内の経済・社会改革をするというMBSの計画は、実現が難しくなる恐れがある。MBSは独裁的に政策決定をしてきたので反発も強いと思われ、サウジの国内が不安定になるおそれも否定できない。前皇太子ムハンマド・ビン・ナエフ、その弟のナワフ王子、サルマン国王の弟のアハマド王子の「反逆罪」での拘束が報じられているが、これはサウジ政局の不安定化を示している。
ロシアについては、コロナウイルス関連の原油価格下落は一時的であるとみているようであるが、そうではない可能性が高い。石油需要は減っており、安くなったら需要が増えるという価格弾力性は今回の場合有効である範囲が限られるように思われる。
ロシアは「木の生えたサウジ」といわれる。サウジはMBSが「ビジョン2030」で石油に過度の依存しない経済を目指している。これに対し、ロシアは石油ガス依存の経済を変える努力を十分にしていない。石油依存から脱却すべきであると分かってはいるが石油依存をやめられない状況にある。コロナウイルス問題は一時的であろうが、今や国際的な潮流となっている温暖化対策は、長期的にエネルギー源としての石油依存を減らしていくことになる。したがって、ロシア経済は、今でもIMFによると韓国以下のGDPであるが、さらに悪くなると思われる。
いずれにせよ、OPECに振り回された原油生産国優位の秩序は終わりつつあると見てよいであろう。
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