林氏:私は、都市というものを理解する方法として、ひとの手がしていることを考えるのが第一歩ではないかと常々思っています。現代はあまりにも膨大な情報に囲まれていて、多くのことを“そこに存在しているのが当然”と思いがちです。
高い「塔」に昇って眼下を見わたしますよね。そうするとそこに見えるものは、ほとんど人間の手によってつくり出されたものです。建物、道路、鉄道、橋、ちょっと飛躍しますが、いま手にしているペンだって……人工物は、まさに人が工(たく)みに生み出したわけです。そう考えると「塔」から見える景色とは何と素晴らしい世界ではないでしょうか。
普段は意識しないでしょうが、そうした大小様々な「ものづくり」に携わる人びと、“ひとの手の技の成果”、それらを理解しようとする姿勢が希薄ではないか、それがなければより良い「都市」というものが形成されていかないのではないか、と思うのです。そういう自覚を促すべく、そのことを伝えたい、という思いを持っています。
提供:早稲田大学理工学総合研究所
「塔」に関して言えば、「東京タワー」を設計した内藤多仲博士なくしては語れません。彼は「電波塔の父」、「塔博士」と呼ばれていますが、コンピューターなどない時代に、気の遠くなるような計算を一つひとつ積み上げていって、自らの頭脳、手業(てわざ)だけで、紙の上に形を描き出し、前人未到の世界を開拓したわけです。構造設計なくして大型建物は実現できないのです。
そして次にそれを建設現場の技術者・職人たちが、身体を使って着実に、現実の形につくり出したわけです。いかに高精度の建設機械があったとしても、それもひとが動かしているのです。
そのような、人間が一つひとつの身体の動きを積み上げた結果の、その紛れもない事実によって、「東京タワー」や、「東京スカイツリー」が現実に姿を現してくるわけです。
――これからのひとと「塔」の関係はどうなっていくと思いますか。
林氏:これまでは、林立するビルのあいだに「塔」が見えたら、それは「東京タワー」でした。しかし、これからは二つの「塔」が並び立っている。そういう二大ランドマークが屹立する東京は、世界でも大変印象深い都市と言えますよね。
「東京タワー」は「テレビ時代」を連れてきました。時代というものは、相当の時間が経たないと評価や把握が難しいものですが、「東京スカイツリー」もまた新しい時代を連れてくるでしょう。それが具体的に何かはまだわかりません。けれどもそこに我々は立ち合うことができるのです。五感をフル活動させてそれを感じていきたいと思います。
本書では、「塔」って面白い、不思議だよね、なぜ「塔」に惹かれるんだろう、それらを考える方法やルートのいくつかを提示しました。「塔」とは何かを考えることは、都市を、そこにある人びとが形づくってきたものを、引いては人間を考えることにつながっていくと思います。ぜひ本書を読んで「塔」に昇っていただきたいですね!(笑)
林 章(はやし・あきら)
1945年生まれ。早稲田大学商学部卒業。都市文化・建設文化について評論・著述活動を行なう。最近著に『東京駅はこうして誕生した』、『塔とは何か―建てる、見る、昇る』(ともにウェッジ)など。
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