ICRPの勧告に立ち返れ
日本に限らず世界中の国々が利用している放射線防護の基準は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告である。勧告は、線源が管理されていない非常事態(緊急時被ばく状況)では、年間20~100mSvの間に目安線量を定め、それ以下に被ばくを抑えるように除染活動を実施すること、そして、線源が管理されたあとの復旧期(現存被ばく状況)では、年間1~20mSvの間のできるだけ低い値を目標とすることを求めている。その意味では、政府が4月に計画的避難区域を設定した際の基準となった20mSvは緊急時のもっとも低い値であるし、現在、復旧期のなかで除染の目標を5mSvとすることもICRPの勧告に適合した考え方である。
しかし、4月下旬、年間20mSvという校庭利用の暫定基準に対し、小佐古敏荘氏が「自分の子どもはそういう目にあわせられない」と涙して内閣参与を辞職。こうした専門家の言動で「20mSvは危険」「1mSvでないとダメ」との世論が高まっていった
大事なことは、ICRPが指摘しているように、暫定的な目標となる線量の数値は、安全と危険の境界を表すものではないということだ。放射線防護では、広島・長崎の原爆の被害者のデータから100mSvで発ガンリスク0.5%の増加を見込んでいるが、この程度の増加は統計的にも検出できない。健康リスクが検出できないほど小さい100mSv以下の低線量では、生活全体のリスクを軽減するのがより重要というのが、放射線防護の考え方である。高いところから効率よく除染を進めていくのが当然であり、平等の観点で低いところまで一律に徹底的に除染を行うのはナンセンスといえよう。
平常時の数字である年間1mSvという数字を金科玉条にして、それを超すと危険だと言い募るのは、福島など放射性物質に苦しむ人々を不安に陥れ、亀裂を生み出すだけだ。
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