イラクで観光旅行してみたら 

2020年3月28日

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伊藤めぐみ (いとう・めぐみ)

中東在住ジャーナリスト

ホームページhttps://itomegumi1483.wixsite.com/website
1985年生まれ。紛争、思想、歴史をテーマに取材。2002年中米ホンジュラス共和国に1年間留学。中部大学卒業国際関係学部、東京大学総合文化研究科相関社会科学修士課程で社会思想を専攻。
2011年よりテレビ番組制作会社ホームルームに入社し、イラク戦争、ベトナム戦争、人道支援、障害者、町工場などをテーマにドキュメンタリーを制作。2018年よりフリーランス。
2013年にドキュメンタリー映画『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』を監督。第1回山本美香記念国際ジャーナリスト賞、第十四回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞を受賞。イランの映画祭、Cinema Vérité ; Iran International Documentary Film Festival、アメリカ・ロサンゼルスの映画祭 LA Eiga Fest でも上映。NHK BS1『命の巨大倉庫』がATP賞奨励賞を受賞。ベトナム戦争についてのルポルタージュが潮ノンフィクション賞にノミネート。
現在、イラククルド人自治区のクルディスタン・ハウレル大学修士課程に留学中。

胸のところには、My Life My Loveと書いてある

 安全上、新しい人との出会いには警戒するんじゃないかと思っていたが、自由な出会いもあるものだ。

ワーキング・ママ、ウラの経験

 5人で楽しく食事をするが、私はだんだんとある違和感を感じ始めるようになっていた。

 ラフィッドとその友人のウラ、娘たち2人、そして私。全員女。ウラの家に行ってから男性の家族に誰とも会っていない。仕事でいないのだろうと思っていたが、おもてなし付きのイラク人であれば途中で合流してもおかしくはないだろうに。旦那さんはどうしたんですかと聞くのもはばかられたので、

巨大なシャワルマ・サンドイッチ用の肉。ここから肉を削いで使う

 「えーっと、娘さんが2人いるんですよね」と聞くと、ウラはすぐに察したのか、

 「離婚してるの」

 と返して来た。聖地ナジャフの出身者で離婚経験者とな。新鮮な驚き。離婚した理由を聞いてみたくなったが、知り合ったばかりでどこまで聞いていいかわからず、 

アバヤ姿の女性たちが道路脇のテーブルでアイスクリームを食べておしゃべりしていた

 「えーと、お仕事されているんでしたっけ?」と聞くと、

 「銀行で働いているの」とのこと。 

 ウラは収入もあるし、両親と兄弟と暮らしているのでそれなりには安定しているのかもしれない。ただ思った以上にナジャフが開かれていたとはいえ、女性はみなアバヤだし、保守的な部分も強いだろう。いろいろ苦労もあるのだろうかと想像する。そういえばラフィッドも離婚経験者だった。

 その扉を開けてはならぬ、見てはならぬ

 ナジャフの二面性をさらに実感したのは帰宅後だった。

 ウラの家に帰り、1階のソファーのある居間でラフィッドとカマルたちとグダグダ。ラフィッドはアバヤを脱ぎ捨て、タンクトップ姿だ。

 「ガサゴソ」

 外で物音がした。急に慌て始めるラフィッド。小さなカマルが走り飛んで入り口のドアを抑えにかかる。カマルが何やらドアの向こうの人に伝えている。あたふたするラフィッド。外から返事があり、安心した顔のカマルが開けると、現れたのはウラのお母さんだった。

 お母さんも「あらいやだ、びっくりさせちゃった、うふふ」といった雰囲気で笑っている。何事かと思ったが、なるほど、ヒジャーブ姿でないところを男性の家族に見られてはまずいということなのだろう。

 というか男性の家族には一度も挨拶もしていないので、ヒジャーブをしていたとしてもできるだけ合わせずにすませたいのかもしれない。

 しかもよくよく観察すると、家自体がお客さんが来た際、男女別々にもてなすのに便利な造りになっていた。玄関が2つあって、それぞれの玄関が今いる居間と、キッチン兼居間の別々の部屋に通じていた。それぞれの側にトイレもシャワーもあるようだった。玄関が2つある作りは別にナジャフに限ったことではないけれど、アシュラの時に知らないお客さんが来ても、男女別々に迎えられるのでさらに便利とのこと。

イラクで全国展開する人気のレストラン

 小さなカマルは、小さいながら自分の役割をわかっているのか、左右の部屋を行き来していた。まだヒジャーブなしで出掛けてもOKな年齢であるので、彼女ならどちらのお客さんに会っても大丈夫なはず。誰かが来そうになると「今、女性のお客さん来てるから入って来ちゃだめ!」と言っているようだった。

 寝る支度をするために2階のウラの部屋に上がる時も、ウラがまず先頭をきりドアを開け、ラフィッドと私が続けて出て行こうとすると、

 「きゃー、だめだめ、待って待って!」

 元の部屋に押し戻された。どうやらお父さんと兄弟がいる隣の部屋のドアが開いたようだ。ウラが向こうの部屋のドアを閉め、

 「さあ、急いでいくよ!」

 と彼女の掛け声できゃーきゃー言いながら小走りで階段を駆け上がった。

 2階に上がってもラフィッドとウラは相変わらず、ベッドに寝転がっておしゃべり。私はクタクタで、縮こまって寝ていたのをカマルが2人に言ってベッドの場所を空けてくれた。

 なんて気の利くお嬢さんだろうか。小さいながらこの男女分離問題の橋渡し役を担っているからこそ、いろいろと気づくことも多いのかもしれない。喋り続けるラフィッドとウラの声を子守唄に熟睡した。

  
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