2023年1月30日(月)

韓国の「読み方」

2020年3月28日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

危機コミュニケーションを「防疫」の重要な柱に

 韓国が今回、大量の検査能力を整備できた理由として挙げられるのが、2015年の中東呼吸器症候群(MERS)流行時の失敗だ。院内感染を中心とした感染拡大を許してしまい、38人の死者を出した。この時、多くの死者を出したこととともに批判の対象になったのが後手に回った情報公開だった。

 韓国政府は翌2016年、疾病管理本部(KCDC)を感染症対策の司令塔として格上げし、組織を強化した。この時に新設されたのが、24時間体制で危機管理に当たる「緊急オペレーションセンター」と本部長直轄の「危機コミュニケーション担当官」組織だ。

 韓国政府はこの時、感染症の危機対応では疫学的な防疫だけでなく「心理的」な防疫も重要だとし、「緊急オペレーションセンターが疫学的な防疫に責任を負うとすれば、心理的な防疫は危機コミュニケーション組織が担当する」と説明した。感染症と戦うためには国民の協力が必要であり、そのためにはメディアを通じた広報とともに、国民に情報を直接届ける努力が大切になるということだ。

 韓国メディアによると、危機コミュニケーション組織には内部登用に加えて、公募で医師やPR会社出身者ら多彩な人材が集められた。担当官は昨年末時点で17人おり、平時から積極的な情報発信に努めながら危機発生時のシミュレーション演習などをしているという。

 組織改編から1年余り経った2017年2月の調査では、疾病管理本部の存在を知っている人が55.8%にすぎず、知っているという人に信頼度を聞いても「不信感を持っている」が55.9%という散々な結果だった。だがこれも今回の新型コロナ対策で大きく変わったようだ。ソウル大保健大学院のユ・ミョンスン教授が民間機関に依頼して今年1月31日〜2月4日、2月25〜28日の2回行った世論調査によると、疾病管理本部の信頼度は74.8%から81.1%へ上昇した。

 2回目の調査が行われたのは、ちょうど新興宗教「新天地イエス教会」での爆発的な感染拡大が大きな問題になっていた時期だ。青瓦台(大統領府)の信頼度は1回目の57.6%から49.5%へ下落していた。韓国の国民はこの最悪の時期に、感染拡大を防げなかった文在寅政権には不信感を強めつつも、現場で頑張っている疾病管理本部には信頼を寄せていたようだ。

 なお青瓦台サイトも、トップページで新型コロナについて「国内」「国際」と分けた概要を掲出している。見栄えのいいインフォグラフィックだが、なぜか「国内」表示の方で韓国と日本、イタリアのPCR検査実施数と結果が陽性だった比率を並べている。日本より検査数がはるかに多く、イタリアより陽性率がとても少ないと言いたいようだ。4月15日の総選挙を前に「韓国政府はよくやっている」とアピールしたいのかもしれないが、あまり好感を持てるものではない。プロフェッショナルの仕事に徹する疾病管理本部の方が青瓦台より信頼される背景にも、こうした政治性の有無があるのではなかろうかと皮肉の一つも言いたくなる感じである。

  
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