2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2020年3月24日

 日々情報が更新される新型コロナウイルス(COVID-19)。情報が洪水のように流れてくる一方で、よく分からないことも少なくない。山本直樹・東京医科歯科大名誉教授、元国立感染症研究所エイズ研究センター長(ウイルス学)に、疑問を聞いた。

(z1b/gettyimages)

Q 日本は韓国など諸外国と比べて、新型コロナウイルスの感染を判定する検査数が少ないことが指摘されています。

A 新型コロナウイルスの検出に使用されるPCR検査は、ウイルスの遺伝子を調べています。この場合、陰性だったからといって、感染していないと判断するのは間違いです。そもそも、ウイルスの遺伝子を調べるにはある程度の数が必要になります。ところが、採取のタイミング、部位によって、採取できるウイルスの数は違います。そのため、たまたまウイルスの少ないサンプルを採取してしまうと、本来感染していても、陰性になることもありうるのです。

 もう一つ重要なことは、「抗体」です。人の体は、ウイルス(抗原)が入ってくると、抗体を作ります。免疫反応と呼ばれるものです。

 PCRのような遺伝子検査と抗体検出検査の両方がそろうことで、診断の精度を高めることができます。「抗体」はワクチンの開発にもつながります。

【山本直樹・略歴】1970年熊本大医学部卒業、1984年山口大医学部教授、1990年東京医科歯科大教授、2004年同大名誉教授、2001年国立感染症研究所エイズ研究センター長、2010年国立シンガポール大教授。

Q いわゆる医療行為とは異なり、国立感染症研究所が当初行っていたのは「疫学調査」だ、という報道があります。この「疫学調査」とは何でしょうか?

A 新型ウイルスが発生したら、「疫学調査」が行われるのは当然です。疫学調査というのは、因果関係とその妥当性を探る調査です。例えば、タバコと肺ガン、塩分と高血圧など。要するに研究という位置づけです。ところが、そうこうしているうちに、ダイヤモンドプリンセス号の問題が発生したことで、研究段階どころではなくなったということだと思います。

Q 感染症対策の初動において必要なこととは何でしょうか?

A 1918年のスペイン風邪における、アメリカのセントルイスとフィラデルフィアの例で明らかなように、初動をしっかりすることが大事です。セントルイスでは、発生当初から集会など人が集まることを禁止することで、ピークを遅らせ、ピーク時における死亡率でもフィラデルフィアの4分の1に抑え込みました。笑いものになってもいいという覚悟で「オオカミ少年」のような行動をとる人が必要だと思います。

Q 感染者が急増するドイツやイギリスでは「集団免疫」ということが言われました。

A ここまでくると、調べるとかなりの人が陽性になっている可能性があります。気づかないまま感染していることを「不顕性感染」と言います。ドイツのメルケル首相や、英国のジョンソン首相は「国民の6、7割が感染する」と言っています。

 「集団免疫」とは、「ウイルス感染に二度かかりなし」と言われることを利用して、自然に任せるという対応です。致死率がそれほど強くないウイルスの場合、こうした対応も可能で、多くの人がマイルドに感染すれば、ワクチンを打つことと同じ効果があります。この背景には、英独ともに新型コロナウイルスは「インフルエンザ程度」という判断があるのだと思います。

 逆の見方をすれば、初期の拡大防止に失敗したとも言えます。国として集団免疫を推奨するのであれば、高齢者など重症化する可能性がある人たちを徹底的にケアしなければなりません。

 ただし、この方法は、エボラ出血熱など、致死率の高いウイルスに対しては行うことはできません。普段からどの程度の感染症対策の準備をしておくのか。予算制約があるなかで、社会的に議論しておく必要があるでしょう。

Q 不特定の人を検査して、「市中感染率」を出すといったことはしないのでしょうか? 市中感染率が分かれば、その比較によって、各種自粛措置の終了、延長の判断がしやすいと思うのですが。

A その通りです。非常に役に立つ情報が得られるはずです。しかし、それをどうやるのかが問題となります。何の約束事なしにやると、人権問題だと非難の声が上がる可能性もあります。例えば、目的を明示したうえで、ボランティアを募るということであれば可能かもしれません。

目的:新型コロナウイルスの広がりについての疫学調査。

対象:健康な若者(匿名で)

Q 終息についてはどのようなことが言えるでしょうか?

A 難しいのは、いったん消えたかに見えても、再発する可能性があることです。ウイルスと自然宿主(動物)というのは普段は平和共存しています。ただし、その関係性はすべて異なり、複雑です。中国などでよく見られる「ウェットマーケット(床の濡れた市場〔いちば〕)」のような場所で取引された動物を人間が食べることで、新たな宿主が現れると、ウイルスと宿主の平和共存関係が崩されます。また、人は長生きしても100年なので、抗体を持った人がいなくなれば、終息したはずのウイルスがでてくるということもありうるのです。

  
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