3月22日、北朝鮮の金与正・労働党第一副部長(金正恩の妹)は談話を発表、トランプが金正恩に親書を送り、米朝関係改善のための「計画」を説明、コロナウイルス対策での協力も申し出たことを明らかにした。
3月22日付のワシントンポスト紙の記事‘N Korea says Trump’s letter offers anti-virus cooperation’によれば、同氏は「急いで結論を出すとか楽観的になることは良くない」「自分の個人的な意見では、二国間関係と対話は、均衡が動的かつ道徳的に保たれ、両国間の正義が確保された場合にのみ考えられる」「現時点でも米国が維持している残酷な環境の下で、我々は自らの発展と防衛のために懸命に働いている」(制裁解除のことを指すのであろう)と述べた由である。金与正のコメントは冷静で現実的、北としては正直なコメントのように思われる。
米側は、今のところ親書発出の事実だけを明らかにするのみで、トランプの「計画」が何なのかなど詳細は分からない。米政府関係者は、今回親書は新型コロナ対策でのトランプの各国首脳との連携の一環だと述べ、「トランプ氏は金委員長と連絡をとり続けることを希望している」と述べたという。
トランプ親書発出と北の反応が米朝関係を動かす契機になるかどうかが注目される。しかし、その可能性は低いように見える。米朝交渉に対する北の立場は何ら変わっていない。金正恩とトランプは2018年以来3回首脳会談を行い、書簡や特使を通じ、北の核開発につき協議してきたが、2019年2月の第2回首脳会談はトランプが部分的な軍縮措置の見返りに広範な制裁解除を求める金正恩の要求を拒否したため失敗、その後両者の間の外交は停止したままである。金正恩は昨年末という期限を切ってトランプに新しい提案を出すように圧力をかけた。その後、北は核抑止力の強化を公言、「新しい戦略兵器」を発表、北は最早主要な兵器実験の一時停止には拘束されないと警告している。
こうした米朝間の外交の手詰まりに加え、何よりも今は世界がウイルス問題で忙殺されている。いずれにせよ、北は、現状を壊さないように、このまま秋の米大統領選挙を待とうと考えているのではないかと思われる。その間、北は時宜により短距離ミサイルを発射し、能力向上に努め、国内引き締めを図るであろう。
目下、最大の不確定要素は北の新型コロナウイルスをめぐる状況である。北は感染ゼロと主張しているが、ロシアに医療機器の支援を要請したとか、金正恩が新病院の建設に乗り出したなどの情報も出ており、引き続き注視していく必要がある。最悪の場合、大きな人道危機に発展したり、あるいは大きな政治転換の契機になる可能性さえあり得る。国際社会と連携し人道支援が必要となる事態等あらゆる可能性を想定し、良く考えておく必要がある。
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