石炭は必要不可欠
トランプ大統領は、2016年の大統領選挙前から石炭の復活キャンペーンを行い、当選後は環境規制緩和など様々な支援策を打ち出した。しかし、シェール革命により価格が大きく下落した天然ガスとの競争に敗れ、石炭を産出する州を除き多くの州で石炭火力は競争力を失った。石炭は個体で輸送費が高いからだ。シェール革命が始まる前、2000年代前半には米国の発電量の約半分を賄っていた石炭火力は、いま米国の発電量の4分の1のシェアもない。2019年の電源別発電シェアは図の通りだ。
3月25日付ワシントンポスト紙(電子版)は、コロナウイルスの感染が拡大する中での石炭産業と労働者を取り上げた。ペンシルバニア州知事が、コロナウイルス対策に石炭は必要不可欠ではないとし炭鉱の閉鎖を指示した時(ちなみに、指示の翌日ペンシルバニア州はCISAの指針を参考に、石炭は必要な産業と方針を変えた)、ウエストバージニア州知事が、「ペンシルバニア州の方針は信じられない。石炭は必要不可欠だ」と反論したことを記事は取り上げ、本当に石炭産業は必要不可欠なのかと疑問を投げかけている。
ポスト紙がまずあげたのが、経済性だ。コロナウイルスにより電力需要が落ちている状況下で暖冬のため発電所に貯炭が十分にあることに加え、原油価格の下落に引きずられ天然ガス価格も下落したことから、石炭は発電用燃料の中で価格競争力を失っていると指摘している。さらに、同紙は、炭鉱労働者が採炭現場で炭塵を吸い込むことにより肺に疾患を持つことが多いことをあげ、コロナウイルスに対して抵抗力がないにもかかわらず、炭鉱では採炭現場への移動時など東京の地下鉄並みに密着し感染リスクが高いと指摘した。
ワシントンポスト紙の記事に対しては、全米鉱山協会が反論を発表した。石炭火力の発電シェアは、産炭州では、ウエストバージニア92%、ケンタッキー74%など依然高いことをあげ、さらに、風力と太陽光を合わせても発電シェアは10%にも届いておらず、全米でも石炭火力は安定した発電を行っていると述べている。コロナ対策としては、炭鉱では常に距離を取り、現場に消毒薬を設置する対策も取っているとしている。
このワシントンポスト紙の記事に触発されたわけではないだろうが、CISAは石炭関連産業を必要不可欠として明記した。改定前でも電力業界が含まれていたので、発電用燃料を供給している石炭関連産業も含まれると解釈できたが、石炭を取り出して記載したのは、トランプ政権の意向を踏まえてのものだろう。コロナウイルス対策も支持率上昇に結び付ける狙いがありそうだ。
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