2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2020年4月20日

 日本の官僚は、昨日の延長線上から明日を考えようとする。しかも、安全保障というような機微な問題となると口を噤(つぐ)もうとする。こうした組織に不測の事態に対応せよというのが無理なのだ。そうした思考回路になっていないのだ。

 佐藤に今回の新型コロナウイルス感染症対策の初動はどう映ったのだろうか。佐藤は次のような例を投げかけてきた。

 「例えばですね、コロナのような感染症はどの役所が担当しますか? バイオテロは? それでは、生物化学兵器が攻撃された場合は?」

 佐藤の問いかけに対する答えは以下の通りだ。感染症は厚労省、バイオテロは警察庁、そして生物化学兵器は防衛省。目に見えない敵に対して、日本の行政は局所的な縦割りでしか対応ができない仕組みになっているのである。不測の緊急事態に対し、即応する組織にはなっていない。その重大な欠陥が今回も露呈した。

 かつて佐藤はこんな体験をしている。佐藤が現役の自衛官として京都福知山駐屯地の連隊長(現・第七普通科連隊)時代のことだ。04年3月、鳥インフルエンザで初の災害派遣に出動する。鳥インフルエンザで死んだ膨大な数の鳥の処理だった。なぜ自衛隊の出動が必要だったのか。こんな背景があった。生きている鳥を所管するのは農林水産省。それが加工品となると厚労省。では死んだ鳥はどうなるのか? 両省の責任のなすり合いの結果、選ばれたのが自衛隊だった。感染症に対応できぬ、日本の役所の限界を示す事例ではあるが、現実に対応できぬ物悲しい日本の姿ではないか。

生かされなかった
新型インフルの教訓

 また、過去の教訓を生かせないのも日本である。09年4月に発生した「新型インフルエンザ」は世界をおののかせた。第一波が終息した翌年6月に、一連の新型インフル対策から浮き彫りになった課題や教訓が有識者らによってまとめられ、当時の民主党政権にいくつもの「提言」として提出された。その後、自民党に政権交代したせいか、その提言は、今回の新型コロナウイルス対策に生かされなかったようだ。

(出所)厚生労働省資料などを基にウェッジ作成
(注)クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」における感染者を除く。死亡者を含む。 写真を拡大

 「感染症危機管理に関わる体制の強化」と記された提言では、「米国CDC(疾病予防管理センター)を始め各国の感染症を担当する機関を参考にして、より良い組織や人員体制を構築すべきである」と明記されている。

 ここで取り上げられた米国CDCは、元々は第二次世界大戦後の行き場を失った軍医、医官等の救済措置として作られた組織であるが、その内実は時代とともに大きく変容した。今やその組織は職員およそ1万4000人を数え、8000億円もの予算を持つ、疫学・病理学の専門家集団である。特質すべきは、この組織が情報収集から感染症対策までをも一貫して行うことだろう。

 これほどの組織を日本で作るのは難しい。だが、内閣官房副長官の下に、指揮官としての「感染症危機管理官」を置いて霞が関を統率し、一方で内閣府の傘下に日本版CDCを作るべきではないだろうか。その中核を担うのは自衛隊化学学校などの専門家が望ましい。


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