Wedge REPORT

2020年4月24日

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個人情報と情報公開
バランスをどうとるのか?

 感染症患者が出たときは、情報公開のあり方も課題になる。3月5日、東京都足立区では区内の小学校、保育園に通う児童、園児に新型コロナの感染者が出たことで、保護者にのみ情報を発信して、一般には校名を伏せた。ところが、記者会見の翌日には当該の学校にテレビ局が取材に訪れていたという。「報道の自由」と言えばそれまでだが、一歩間違えれば不安を煽(あお)るということにもなりかねない。

 同7日、今度は東京都江東区内の保育園に勤める保育士が新型コロナに感染した。同じく保護者には情報が出されていたが、江東区が保育園の名前を伏せて発表したことで、インターネット上では「どこの保育園か?」といった、動きが起きた。

 どこまで情報を出すのかという線引きは、各自治体の判断に任されているのが実態だ。感染症法には、「積極的に情報を発表しなければならない」とある一方で「個人情報にも配慮すべき」とある。

 例えば、前出の和歌山県では、積極的な情報公開をした。3月5日、大阪のライブハウスに行った和歌山市内の女性が感染したことが判明した。仁坂知事は、記者会見において女性の行動履歴だけではなく、勤務先の会社が入居するビルには複数の会社が入っていることなどを考慮して会社名まで発表した。当該企業については仁坂知事が社長に直接電話をして情報公開をすることに了解を得たという。

 和歌山県のような例はむしろ例外で「個人情報に配慮」という前置きがつくと、情報公開は抑制的になることが少なくない。ただし、あまりに漠然とした情報だと、その情報自体に意味がなくなる。

 東京都では、都が一括して情報発信するという取り決めを区や市としていたため、都のホームページでは、発生当初から感染者の居住地は「都内」としか出されていなかった(4月1日に区市ごとの感染者数を発表)。3月27日には、杉並区が独自に区内感染者の数字を出すようになったが、「区民全体への注意喚起をすることが目的」ということで、それ以上に細かい情報を出すことはなかった。

 感染症などが発生した際の情報発信の最前線に長年立ってきた川崎市医務監・川崎市看護短期大学学長の坂元昇医師は「感染症対策におけるコミュニケーションで、『加害者』と『被害者』という構図をつくってはなりません。この対立構造が生まれると、人々はパニックに陥り、犯人捜しに終始するようになります」と指摘する。

 この背景には、09年5月に新型インフルエンザに対応した際の経験がある。米国旅行から帰国した川崎市内の高校に通う生徒3人が、インフルエンザ陽性が出たことが判明。坂元医務監のもとには、保健所担当者から家族が疑似症段階での発表を拒否しているとの連絡が入る。事前の取り決めでは、疑似症でも発表を基本的に行うこととされていたが、「正確で詳細な情報確保のため家族との良好な関係性を維持することが重要だと判断して、家族の思いを尊重しました」(同)。

 しかし、記者会見では情報公開を求める報道各社とのやりとりが深夜にまでおよび、インターネット上では高校生たちに対する誹謗(ひぼう)中傷と見られる書き込みまで現れた。

 このように犯人捜しに陥ってしまえば、本当に必要な情報ですら、得ることが難しくなる。そもそも、感染者が出たという情報発信は何のためか。

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