2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2020年4月24日

統一的な情報発信の
枠組みをつくるべき

 感染者を糾弾することではなく、感染者の行動履歴を公表することで、第三者に注意喚起を図ることだ。

 「感染予防のためには個人が特定されない範囲で、できるだけ詳しい行動歴を公開すべきというのが私の考えですが、現実にはさまざまな壁にぶつかります。例えば、感染者が宿泊していたホテル名を公表した場合には、そのホテルへの営業妨害になる可能性があります」(坂元医務監)。

 感染症にかぎらず、リスク発生時の情報発信は非常に難しい。だからこそ、あらかじめそのあり方について議論をしておくことは大切で、今後の教訓とすべきだ。坂元医務監は「情報発信のあり方については、詳細な統一基準があるべきで、国が何かしらのガイドラインを出してもよいのではないか」と指摘する。

クライシス(危機)
コミュニケーションとは?

 情報発信には、その内容だけでなく、どのように発信するのかという手法も重要なポイントになる。

 3月2日、安倍首相の要請で小中高一斉休校がはじまった。その後、感染者の拡大が止まったとは言えない段階で、19日に経済対策として消費を喚起する「商品券の配布案」、20日には「一斉休校の解除」といった情報が出た。政府は感染拡大の阻止が最優先としながら、国民には誤ったメッセージが伝わった。東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター関谷直也准教授は、優先順位を明確にして情報発信をすべきだと指摘する。

 「長期間学校を閉鎖することの弊害や、自粛を続けることでの経済的ダメージを減らすという政治的配慮は理解できますが、メッセージが『感染拡大の阻止』と『終息に向けた取り組み』という対立する意味になっています。

 結果的に、20日からの3連休では『コロナ疲れ』という言葉も生まれ、桜も咲いたこともあって上野公園や新宿御苑などに多くの人が訪れました。これは、『感染拡大の防止』に対しては逆効果です。危機の最中には、どちらのほうがより大事なのか、優先順位をつけた情報発信が必要です」

「コロナ疲れ」で多くの人が訪れた3月20日の上野公園(AFLO)

 これに加えて、情報発信するリーダーの姿勢そのものも問われることになる。「海外の多くのリーダーは、リアリスティックに、最悪のケースとして国民が犠牲になる可能性に言及し、『平時とは違う有事なのだ』という強い覚悟を伝えようとしています。それらコミュニケーションの手法には、単なる法的な強制力のあるなしではなく、人々の『モード』を変える効果があったと思います」(同)。

 タイミング良く、かつ専門家の知見をくみとり決断すること、そして、それをどのようにして伝えるのか。危機においては、まさにリーダーの「決断力」と「発信力」が試されるのである。

Wedge5月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■新型コロナの教訓 次なる強敵「疾病X」に備える 
Part 1        「コロナ後」の世界秩序 加速するリベラルの後退
Part 2        生かされなかった教訓 危機対応の拙さは必然だった
Interview   「疾病X」に備えた日本版CDCの創設を急げ
Interview     外出禁止令は現行法では困難 最後の切り札は「公共の福祉」
Part 3        危機において試されるリーダーの「決断力」と「発信力」
Chronology  繰り返し人類を襲った感染症の歴史  
Column1     世界のリーダーはどう危機を発信したか?
Part 4         オンライン診療は普及するのか 遅きに失した規制緩和   
Column2     露呈したBCPの弱点 長期化リスクへの対策は?

  
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◆Wedge2020年5月号より


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