転落した危機感なき保守派が呼んだ敗北
ソウル大の康元澤教授(韓国政治)は保守系紙・朝鮮日報への寄稿で、選挙前の内外情勢について「経済が萎縮して商店は店を閉じ、雇用は増えず、北朝鮮はミサイル発射を続け、周辺国のどことも関係がうまくいっていなかった」と評価しつつ、「コロナウイルスの流行という眼前の危機がこれらすべてを隠してしまった」と指摘した。内憂外患に苦しむ文政権にとって、コロナ対策の成功が強い追い風になったということだ。
ただし康教授の分析はここで終わらない。「しかし、その『運』だけに原因を求めるには、今回の選挙で与党が得た議席数はあまりにも多い。民主党にここまで票が集まったのは、文政権に対する積極的支持の現れというより、既存の保守政治に対する強い拒否感だと見なければ説明が難しい」というのだ。
実は韓国では与党の得た議席数とともに、2016年の前回総選挙、2017年の大統領選挙、2018年の統一地方選に続く進歩派政党の「4連続勝利」だということが注目されている。これは1987年の民主化以来、初めてだという。今までは保守派と進歩派がシーソーゲームのように勝ったり負けたりを繰り返してきたのだが、どうも「進歩派の勝ち=保守派の負け」が固定化されてきたのではないかという見方だ。朝鮮日報の楊相勲主筆もコラムで、こうした構図が固まってしまえば巨大与党と弱い野党という「日本式1・5大政党制」になってしまうと保守派に警告した。
もっと手厳しいのは、30年近く韓国政治を見てきた政治コンサルタントの朴ソンミン氏だ。韓国紙・中央日報のインタビューに応じた朴氏は、新型コロナは「大きな影響を与えなかった」と評価し、「大韓民国の主流交代が完成した」と断じた。
今回総選挙の投票率は2000年代に入って最高の66%に達した。朴氏はこれを「(保守と進歩という)両陣営の支持者が結集して投票した結果だ。保守が完全に没落し、いまや非主流になった。文在寅大統領はかつて『自分が政治をする目的は主流を交代することだ』と語っていた。それが口先だけではなかったということが、今回の選挙で確認された」と語る。
文在寅の「主流交代論」とは何か
文氏は朴槿恵前大統領が弾劾訴追された後の2017年1月、大統領選をにらんだ対談本を出した。そこで強調したのが「韓国政治の主流勢力を交代させなければならない」ということだった。
主流交代論を簡単に説明すると次のようになる。
前提となる認識はこうだ。朝鮮王朝時代に権力を私物化した勢力が国を滅ぼして日本の植民地に転落させたのに、その勢力は植民地支配に協力する「親日派」となって利権をむさぼり、日本の敗戦によって植民地支配から解放された後には「反共」というお面をかぶって独裁勢力になった。そうした勢力をきちんと清算してこなかったから、彼らが依然として韓国社会で既得権を握っている。
ここで独裁勢力と決めつけられているのが、保守派である。植民地時代に産業界や官界で地歩を築いた人々が多く、日韓国交正常化後に日本の資金や技術協力を得て産業化を進めたのもこの人たちだった。
一方で文氏に代表される進歩派は、日本を相手に独立運動を戦い、その後は軍部独裁に反対する民主化闘争を担ってきた系譜だと自分たちを規定する。そして主流交代という考えは「盧武鉉大統領の時に芽吹いたものを、文在寅大統領の時に実を結ばねばならない一種の課題だという共感が(進歩派の中に)できている」のだという(「文化日報」電子版2018年7月11日)。主流交代論については2月に出した拙著『反日韓国という幻想』でも取り上げたが、保守派を「積弊」と決めつけて徹底的に攻撃する背景にある考え方だといえる。