2024年11月22日(金)

韓国の「読み方」

2020年4月23日

時代の変化に取り残され、保守派は非主流へと転落

 前述の朴ソンミン氏は、時代の変化が主流交代論を後押ししたと見る。冷戦下の1980年代までは北朝鮮との軍事的対決という厳しい情勢を受けた「安保保守」、冷戦終結直後の1990年代は経済成長を至上命題とする「経済保守」が韓国政治の主流だったが、時代は大きく変わった。

 2000年代以降の韓国は経済発展して先進国入りし、国際社会での存在感を大きく高めた。1970年代までの韓国は一人当たり国民所得で北朝鮮に負けていたが、いまや韓国の国力を北朝鮮と比較しようと考える人などいない。日本ではいまだに誤解している人がいるが、豊かになった韓国では「統一より平和」と考える人が圧倒的に多い。北朝鮮というやっかいな隣人には、とにかくおとなしくしていてほしいという程度の感覚だ。文政権の対北政策は「共存共栄」を目指しており、統一はお題目としての「将来的な目標」にすぎない。

 それなのに保守派は時代の変化についていけていない。朴氏の見立ては、そういうことだ。それを示すのが、世代別投票行動だという。保守派は、2010年の統一地方選の時に20〜40代で惨敗を喫した。2012年総選挙では過半数を上回る152議席という勝利を収めたものの、やはり20〜40代は進歩派に投票した人の方が多かった。2014年の統一地方選、2016年総選挙も同じ。そして2017年大統領選以降は、50代でも保守派は勝てなくなった。保守派が60代以上でしか勝てなくなったことが、前述した「進歩派4連勝」として今回まで続いた背景だというのだ。

 朴氏は、それなのに保守派には危機感がないと警告する。「文在寅政権みたいなおかしな連中のために国がおかしくなって、ベネズエラみたいになってしまう。まったく嘆かわしい」と語るばかりの保守派は、すでに主流から滑り落ちたのに「いまだに主流だと自分たちだけが考えている」状態なのだという。

「新しい保守」に脱皮できるか

 ソウル大の康教授に電話をかけ、さらに聞いてみると「旧来の保守派は、すぐ安保に結びつけて語る。もちろん安全保障は大切なことだが、その感覚は国民意識とずれている。国民にとって切実なのは経済や老後、教育、安全といった暮らしの問題だ」と話す。ただ保守派の中でも今回の結果を受けて「変わらないといけない」という危機感は共有されるようになっており、保守派に再起の目がないわけではないという。

 選挙結果にしても、議席数では大差を付けられたけれど、得票率でそこまでの差があるわけではない。東亜日報によると、比例代表での各党の得票率を大きく進歩派と保守派に分けて集計すると、進歩派が52・2%、保守派が41・54%だった。前回までは進歩派と保守派がほぼ同率で並んでいたので差がついたとは言えるが、まだ回復不可能とまでは言えない。

 韓国政界で次に注目されるのは2022年3月の大統領選だ。康教授は「新しい保守像を打ち出すことができれば、保守派にも勝算はある。ただし党内の抵抗勢力を抑え、新生保守をアピールできるリーダーシップを確立する必要がある。あと2年でそれをできるか、そこにかかっている」と話した。

 なお、今回の総選挙では、慰安婦問題で日本批判を展開する正義連(旧挺対協)の尹美香理事長が与党側の比例区で当選した。日本では警戒する向きもあるようだが、対日外交に大きな影響を与えるほどではないという見方の方が強いようだ。そもそも新人議員1人の影響力には限界があるし、韓国の比例代表選出議員は1回限りというのが不文律である。

 康教授はむしろ、日韓関係を悪い状態のまま次期政権に引き継ぎたいとは文政権も考えないだろうという見方を示す。康教授の寄稿で触れられたように、現在の韓国外交は八方ふさがりに近い状態なので、さすがにそのまま任期を終えたくはないのではないか、という見方だ。過去の政権とは違い、任期後半の選挙で圧勝して強い政権基盤を手にしたからこそ、柔軟な対日政策に転じることも不可能ではない、ということだ。

 康教授は「そうは言っても日韓関係は何があるか分からないから」と笑うものの、そうした方向性に期待したいところである。

  
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