中国 覇権への躓き

2020年5月25日

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鈴木 隆 (すずき・たかし)

愛知県立大学外国語学部中国学科准教授

専門は中国政治。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程満期退学、博士(法学)。日本国際問題研究所研究員などを経て、2011年10月より現職。

 なぜこのような状況に陥ったのか。1970年代末に改革開放政策が始まって以来、中国の経済と社会では、前出の「企業事業単位・社会組織の管理人員と専業技術人員」を含む「新社会階層」と呼ばれる新興エリート層が存在感を増してきた。新社会階層とは、江沢民期の2001年に提起され、①民営科学技術企業の創業者と技術者、②外資系企業の管理職と技術職、③個人経営者、④私営企業家、⑤弁護士・会計士など「仲介機構」の就業者、⑥自由業者を指す。

 中共は、江沢民・胡錦濤の両時期を通じて、持続的な経済成長の実現とともに、これら新興エリート層による反体制運動の抑圧のため、「懐柔」と「統制」の両面から多様な活動を行ってきた。

 懐柔の典型が、21世紀に入って共産党にとっては階級敵であるはずの私営企業家の入党さえ、認めるようになったことである。

 統制の代表的手段が企業内での党組織設置の推進である。近年の米中貿易戦争で、米国政府がファーウェイなどの有力企業と中共との緊密な関係を問題視する背景には、企業内党組織の不透明な活動実態がある。では、その役割と実態はどのようなものか。

 企業内党組織の設立は、統治の効率を考慮して大企業を優先して設置されている。18年時点で、全国で党組織がある公有制企業は18万1000社、非公有制企業は158万5000社である。しかし、この年の企業総数は3474万2000社であり、公有・非公有合わせても全体の5%にすぎない。むろん企業が倒産したり合併買収されたりすると、設置されている党組織も消滅・統廃合される。

(注1)「党政機関工作人員」は党や政府機関で働く党員、「企業事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員」は企業や各種非営利の社会組織(学校、病院、研究所など)の管理職・専門職
(注2)2014年以降は、「企業事業単位・民弁非企業単位専業技術人員」と「企業事業単位・民弁非企業単位管理人員」の2つを、それぞれ合算した数字。2018年以降は、「企業事業単位・社会組織業技術人員」と「企業事業単位・社会組織管理人員」の2つを、それぞれ合算した数字
(出所)人民日報など各種資料に基づいて筆者作成 写真を拡大

 事実、17年の実績では、党組織が既設の公有制企業は18万5000社、非公有制企業は187万7000社であった。わずか1年で、前者は4000社(マイナス2%)、後者は29万2000社(マイナス16%)も減った。それゆえ新型コロナウイルスの感染拡大により、経済不況が深刻化すれば、20年の企業内党組織の数は19年に比べて大きく減少するだろう。

トランプ政権が警戒する
企業内党組織の実態

 企業内党組織の活動はどのようなものか。そもそも、「フツーの党員」の最低限の義務的な活動は、政治学習会への参加と党費の納付である。党員は、職場や学校で定期的に開かれる学習会に参加しなければならない。そこでは国の基本政策や政治家の演説内容を学んだり、各種業務に対する自らの取り組みや反省などを他のメンバーの前で述べたりする。

 党費は、毎月の所得の多寡に応じて金額が算定される。例えば毎月の給与所得がある党員で、固定収入が3000元以下の者はその0.5%、つまり3000元(1元16円なら4万8000円)の場合は15元(240円)を所属する党組織に毎月支払う。

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