中国 覇権への躓き

2020年5月25日

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鈴木 隆 (すずき・たかし)

愛知県立大学外国語学部中国学科准教授

専門は中国政治。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程満期退学、博士(法学)。日本国際問題研究所研究員などを経て、2011年10月より現職。

 納付額が最も少ないのは、学生や生活困窮者の党員で、0.2~1元(約3~15円)である。現実にはあり得ないが、前述の9059万4000人の全党員が、最少の3円の党費を毎月滞りなく納めた場合、1カ月で約2億7200万円、1年間で約32億6000万円の「収入」となる。まさに「塵も積もれば山となる」であり、党にとって「人民に奉仕する」(毛沢東の言葉)ため、先立つものは金である。

 一方、企業内党組織の活動は企業ごとにさまざまだ。基本的には「工会」と称する官製労組とともに、労務管理など企業活動に関するトラブルシューター的役割を務めていると思われる。もちろん、イデオロギー研修なども行っているが、資本の論理が優先されるため、活動は総じて停滞気味である。

 一部の大型国有企業を除けば、企業内党組織の幹部の多くも当該企業では被用者の立場であり、社員としての業務を優先して党務への注力は難しい。また、民間企業の場合、党組織の活動は基本的には業務時間外で行うしかなく、形式的な活動に流れやすい。

 米国は中国人社員による外国企業の情報窃取も非難している。しかし、一般的には、社員が党員だとしても、専門的訓練を受けていない素人による情報工作は、組織や人的ネットワークを危険に晒(さら)すので推奨しにくい。その代わり、各自の通常業務の中で知りえたさまざまな情報を、専門機関がしかるべきルートを通じて広く、浅く収集し、そこから有益な情報を取捨選択、深掘りしていくと思われる。党組織を通じたインテリジェンス活動も、まずは数の多さが武器であり、ここでも「塵も積もれば山となる」のである。

 一方、12年に党総書記となった習近平は、企業や学生を中心とした量の拡大路線を見直し、入党者の総量規制を行っている。13年1月の政治局会議では、①入党活動の不備による党員の政治信念と規律観念の希薄化の是正、②党員の「質」の向上を目指した入党者数の量的制限、③中共の伝統的な支持基盤である三大集団(労働者、農民、知識人)の青年層へのリクルート重視が指示された。

イデオロギー研修は
「時間のムダ」

 また、習近平政権に入り、社会の変化に対応して、より効果的に政治的取り込みを行うため、新社会階層のターゲット集団を再定義し、個人経営者と私営企業家を「非公有制経済企業人士」として別の範疇とする一方、(a)私営企業と外資企業の管理職・技術職、(b)「仲介機構」と社会組織の就業者、(c)自由業者、(d)ネット空間のオピニオンリーダーとIT業界の経営者からなる「ニューメディアの代表者」とした。

 しかし現在までのところ、習指導部が期待するような成果は得られていない。②について、胡錦濤期に比べると習近平期には毎年の入党者は確かに減った。例えば08年は280万7000人、18年は205万5000人でマイナス27%である。だが③の職業構成では、既述のとおり、労働者・農民集団の減少傾向に変わりはない。

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