中国 覇権への躓き

2020年5月25日

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鈴木 隆 (すずき・たかし)

愛知県立大学外国語学部中国学科准教授

専門は中国政治。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程満期退学、博士(法学)。日本国際問題研究所研究員などを経て、2011年10月より現職。

 共産党にとって最大の難点は、①に関連した入党志願者の功利的動機である。今日、入党者の中で共産主義の理想を信じている者はほぼ皆無ではあるまいか。

 実際、中堅党員である筆者の友人たちも、習近平期政権下で職場の党組織によるイデオロギー研修の回数が増えたことについて「実のない退屈なもので、業務が忙しいのに時間のムダ」と愚痴をこぼしている。

 以前に比べれば、党員の身分に付随するメリットも小さくなっている。現在の中国社会では、党・政府機関、国有企業に就職したい者、および、それらに勤めている非党員で幹部への出世を望む者には党員資格が必要だが、そうしたインセンティブがなければ、自分の時間と行動を一定程度制限される党員になりたいと思う者は少ない。要するに、自らのキャリア形成にとって必要を感じた場合に入党するのであり、そもそも功利的なのである。

 また、非党員の企業家をはじめ、前述した新興の社会エリート層ほど、資金や人脈など、自身のライフチャンス実現のための資源と選択肢をすでに多く持っている。そのため、これらの人々の入党志望度は元来さほど高くない。むしろ中共の方が取り込みに積極的とみられる。それゆえ新興エリート層が党員になったとしても、党活動への取り組み意欲は低いであろう。

 市場化と近代化の結果、中国の社会と経済は大きく変化した。これに伴い中共も、本来の支持基盤である労働者と農民を組織的に疎外してきた。保守的信条を持つ習近平は、そのトレンドを変えようと試みているが、強権政治家も社会の大きな流れの前には無力である。党創立1世紀の記念すべき機会に際し、組織面でもイデオロギー面でも、労農同盟の政党ではなくなりつつある中共は、矛盾をかかえたまま百周年を迎えることになる。

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PART 5-2 顕在化する自治体間の「教育格差」 オンライン授業の先行モデルに倣え
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◆Wedge2020年6月号より

 

 

 

 

 

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