フランスのジューヌ・ベルヌが著した児童小説『十五少年漂流記』では、ヨットが漂流し、無人島にたどり着いた15人の少年の奮闘が描かれている。少年らはリーダーである「大統領」を決め、自給自足生活に入る。大統領がまず決めたのは、暦をつけて日課表を作成することだった。そして、年長者が年少者の教師役になって朝晩2時間ずつの勉強のカリキュラムを組んだ。少年たちは明日の見えない非常時であろうと学習を決して疎かにしなかったのである。
各地の学校で、異例の長期休校が続いている。安倍晋三首相が全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を要請したのが2月27日のこと。これを受け、3月から全国の学校は一斉休校に入った。だが、新型コロナウイルスの収束の兆しは見えず、緊急事態宣言も継続された。にわかに「9月入学・始業」を模索する動きも出てきた。
「無期限の休暇」を与えられた子どもたち。これ幸い、とばかりにゲームに明け暮れる子どももいれば、ライバルを引き離すチャンスととらえ、塾のウェブ授業を使って受験勉強に精を出す子どももいる。「学力格差」は、どんどん開いていく一方だ。学習環境の整備は、喫緊の課題である。
文部科学省は臨時休校を実施する学校の指導について4月16日、全国の自治体に対してサンプル調査を実施した。そこでは全ての自治体が「教科書や紙の教材を活用した家庭学習」を課していると回答した一方で、テレビやICTを活用した「リモート(遠隔)学習」を実施している自治体は少数派であった。具体的には、
「デジタル教科書やデジタル教材を活用した家庭学習」─29%
「テレビ放送を活用した家庭学習」─24%
「教育委員会が独自に作成した授業動画を活用した家庭学習」─10%
「同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習」─5%
となっている。
その上で、休校中の登校日を一切設置していない(する予定もない)学校は55%にも上る。教育委員会から何も指示を受けない学校と、一部積極的にリモート学習を取り入れる学校が存在しているのが実情だ。このままでは自治体間の教育格差も、どんどん広がっていくであろう。
なぜ、各地の教育委員会や学校は動きが鈍いのか。その背景のひとつに文科省が「対面授業」に、こだわり続けてきたことにある。文科省は対面指導なしの単位取得を原則、認めていない。文科省が堅守する金科玉条は、「教育の平等性を担保すること」である。
確かに裕福な家庭と、そうではない家庭とでは、ネット環境は均一ではないことは容易に想像がつく。また、僻地ではWi−Fi環境が整備されていなかったり、ケーブルテレビが引かれていなかったり、といった自治体間でICT環境は異なる。