放送後、保護者から教育委員会への要望が相次ぐなど、反響は大きかった。
「小学1年生から3年生の授業も放送してほしい」、「放送を見逃したので動画を早くアップしてほしい」。
保護者からだけではない。「ノウハウを教えてほしいと、全国の自治体からも問い合わせが来ています」(京都市教委)
ちなみにテレビの番組制作費用、新聞の発行費用は各社「持ち出し」という。KBS京都は収益を第一に考えるのならば、テレビショッピングなどを流せばよかったかもしれない。KBS京都の経営事情は、市民の多くが知っているのだ。
KBS京都はイトマン事件に巻き込まれ、1994年に会社更生法を申請し、経営破綻した苦い過去を持つ。しかし、当時市民40万人が存続を求めて署名に協力。更生計画が動き出すとオムロン、ワコール、京セラといった地元有力企業のほか京都府・市が出資に乗り出した。KBS京都は市民に支えられる形で2007年、京都地方裁判所が更生手続きの終結を宣言、見事再建を果たした。今回のコロナ禍で、KBS京都は図らずも市民に「恩返し」した形になった。
京都市のような地元自治体と放送局が協働する事例は、他にも少数だが存在する。横浜市は4月8日から全国に先駆け、小中学生向けにオンライン学習を開始。1単元10分程度の動画を計500単元ほど作成した。ネット環境が整わない生徒は学校で受講することも可能とした。また、4月20日からはテレビ神奈川と組んだ番組「テレビでLet's study」をスタートさせている。
また、熊本市では県内の民放4社・NHKが共同参画し、学習支援番組「くまもっと まなびたいム」を放送している。
学級閉鎖や不登校児にも活用
教育コンテンツの可能性
放送局、とりわけ地方局は近年、ネット社会の到来によって、斜陽産業化しつつあった。だが、期せずして、地方局の存在意義が再注目されていることは確かだ。
テレビは貧富を問わずほぼ全ての世帯が所有(2人以上世帯の普及率約97%、内閣府消費動向調査、19年)し、操作スキルも必要としない。しかも、YouTubeなどと連動することで、汎用性のあるコンテンツへと化ける。地方発の教育コンテンツは、全国の家庭で活用できる可能性を秘めている。京都市や横浜市、熊本市での取り組みは、非常時における教育インフラとなり得ることを証明したのである。
京都市教育委員会の担当者は言う。
「今回のコロナだけでなく今後、自然災害等、様々な非常事態が考えうる中でのノウハウの蓄積になったと思います。参加をした教育主事もやりがいを感じ、モチベーション向上にも寄与したと思います」
災害時だけではない。例年、季節性インフルエンザの流行でしばしば学級閉鎖を余儀なくされるが、こうしたケースにも、今回の試みが転用できるだろう。また14万人にも及ぶとされる小中学校における不登校児童生徒の自宅学習にも活用できそうだ。
コロナ禍における地方発の教育モデルが、日本の子どもの未来を背負っていると言っても過言ではないだろう。
■コロナ後の新常態 危機を好機に変えるカギ
Part 1 コロナリスクを国有化する欧米 日本は大恐慌を乗り切れるのか?
Part 2 パンデミックで見直される経済安保 新たな資本主義モデルの構築を
Part 3 コロナ大恐慌の突破策「岩盤規制」をぶっ壊せ!
Part 4 個人情報を巡る官民の溝 ビッグデータの公益利用は進むか?
PART 5-1 大学のグローバル競争は一層激化 ITとリアルを融合し教育に変革を
PART 5-2 顕在化する自治体間の「教育格差」 オンライン授業の先行モデルに倣え
■コロナ後に見直すべき日本の感染症対策の弱点
Part 1 長期化避けられぬコロナとの闘い ガバナンスとリスコミの改善を急げ
Part 2 感染症ベッド数が地域で偏在 自由な病院経営が生んだ副作用
Part 3 隠れた医師不足問題 行政医が日本で育たない理由
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