〝ファイティング・グローブ伝説〟
マスコミに報じられたことはないが、昔は〝乱闘名人〟として恐れられていた球界人もいる。選手時代は俊足巧打で鳴らし、コーチに転身してからも数球団を渡り歩いて、それなりの実績を築いた人物だ。
この人物は、常に拳を痛めないよう、乱闘専用の黒いバッティング・グローブをはめてドツキ合いに参加。これが球界内部で有名になり、「アレはバッティング・グローブじゃなくてファイティング・グローブだ」と言われるようになった。
この〝ファイティング・グローブ伝説〟がすっかり球界に広まったころのこと。試合中、不穏なムードが漂い、相手ベンチから過激な野次が飛んでくる。そうした中、このコーチがぬっとベンチ前に現れ、相手ベンチからもよく見えるように黒いファイティング・グローブをはめて見せる。それだけでもう、相手がシーンと静まり返るほどの効果があった、と言われる。
最近では選手気質も変わり、侍ジャパンが創設されて異なる球団の選手が同一チームでプレーする機会が増えた。おかげで、かつてのように公式戦で喧嘩腰になることも、乱闘にまで発展することもめっきり減った。
ただし、野球選手の持つ闘志はいまも昔も変わらない、と私は思っている。実際、昨年8月13日、メットライフドームの西武-オリックス戦では、死球がらみで久しぶりに白熱の乱闘騒ぎが発生した。オリックス・佐竹学外野守備走塁コーチが暴力行為、オリックス・田嶋大樹、西武・平良海馬が危険球で、計3人が退場処分。実に12年ぶりの1試合最多退場を記録したのである。
そんなエキサイティングな場面も〝コロナ後〟はおあずけとなりそうだが、仕方がない。いまは「グラウンドの華」よりも選手の命を守らなければならない時代なのだ。まずは、今シーズンの開幕にこぎつけることが先決である。
◎参考資料
○インターネット記事
●Full-Count
『台湾プロ野球の“世界最速”乱闘に米も興奮「サヨナラ、新型コロナ」「盛り上がったね」』4月20日配信
●サンケイスポーツ
『台湾プロ野球であわや大乱闘、両軍ベンチ空っぽは「ソーシャルディスタンシングに反する」』4月20日配信
○雑誌
Sports Graphic Number 251(文藝春秋/1990年9月20日号)『プロ野球「暴れん坊」列伝 もっとやってくれ、強烈エキサイティング・ベースボール!』
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