新型コロナウイルスによってスポーツ全体が休業状態に陥っている中、今月12日に台湾で〝世界一早く〟プロ野球が開幕した。
台湾プロ野球CPBL(中華職業棒球大聯盟)の中信兄弟(ちゅうしんブラザース)-統一ライオンズ戦が、中信本拠地・台中インターコンチネンタル球場で観客を入れずに開催。蔡英文総統もテレビ観戦して公式コメントを出したほどだから、ある意味、〝非常時国家的イベント〟とも言える。
15日には日本から新規参入した楽天モンキーズも本拠地・桃園国際球場(台北)で初の公式戦を行った。日本でもプロ野球チームを持つ楽天は昨年、強豪のラミゴを買収し、モンキーズの愛称を継承。当初は中信-統一戦より1日早く、11日にCPBLの先陣を切り、冨邦ガーディアンズとの試合で開幕する予定だったというから、かなり気合が入っている。
楽天にとっては、無観客とはいえ台湾での初戦、かつ地元ファンへのお披露目。テレビやネットの中継を通じて国中にアピールするべく、趣向を凝らした様々な演出を披露した。
まず、お客さんの代わりに、チームのキャップやTシャツを着たマネキン、パネル人形が計500体、さらに三木谷浩史オーナーの顔写真付き人形がスタンドにズラリと並んだ。次に、ロボットのバンドが応援歌を演奏し、ゴンドラに乗ったスタジアムDJ 、チーム・マスコット、チアガールの楽天ガールズなどもグラウンドに登場。華やかで軽快なパフォーマンスで、ナイター中継を大いに盛り上げている。
ちなみに、こういう演出に先鞭を付けたのは、野球ではなくサッカーだ。現在、欧州で唯一、リーグ戦を行っているベラルーシ1部のディナモ・ブレストである。
ベラルーシのリーグ戦は無観客ではなく、通常通り、観客を入れて開幕した。ただし、コロナ禍のおかげで実際に観戦に来るファンは激減しており、時節柄、無謀だ、暴挙だと国内外から批判も浴びている。
そうした中、ディナモ・ブレストは8日の国内カップ戦1回戦・シャフティオール戦に世界中からファンを招待する仮想チケットをネットで販売。これを買ったファンの顔写真をマネキンの頭に貼りつけ、スタンドに置くというファンサービスを始めたのだ。
この奇妙なスタンドの風景は欧米や日本のマスコミやウェブサイトでも紹介された。「悪ふざけが過ぎる」という批判ももちろんあるが、「これまで想像もできなかった光景」と面白がっているファンも少なくない。
野球では台湾に続いて韓国、日本、それに本場アメリカのメジャーリーグもいまだ開幕の時期を探っている。もし無観客でやらざるを得ないとなれば、マネキンや写真を使った〝バーチャル観客〟は十分一考に値するアイデアだろう。
そのメジャーリーグでは、無観客での開幕を前提に、様々なプランが検討されている。中でも、最近とくに有力視されているのが、アリゾナ州とフロリダ州、もしくはアリゾナ州のみに5月ごろからMLB30球団を集めてキャンプを再開。2~3週間後に開幕するというものである。
当初はマスコミの憶測報道が先行し、選手会からも「アリゾナは暑過ぎる」と反対の声があがっていた。夏は昼40℃以上に達し、夜でも38℃以下には下がらないから、コンディションを整えるのが難しい、というのだ。
しかし、コロナ禍が収まらない以上、全30球団が全米各地を飛び回って試合を行う通常開催はほぼ不可能。現状では、アリゾナ州でメジャー史上初の無観客リーグを行うほうが、まだしも現実的と言える。
アリゾナ州にはダイヤモンドバックスの本拠地チェイス・フィールドをはじめ、15球団がキャンプで使用する10カ所の球場がある。毎日、集中的に試合を行うための施設がそろっていることにかけては米国随一だろう。
各チームはホテルに宿泊し、毎日の検温、定期的なCPR検査を受け、毎日球場とホテルを往復して試合を消化する。もちろん、それ以外の場所へ出かけることは自粛、もしくは禁止、というのが、現在考えられている運営方法である。
現に、MLBもすでに、アリゾナ1カ所開催を「現実的選択肢」と認めている。
「選択肢のひとつとして、ある1カ所の地域で試合を開催することについて、われわれは話し合いを行った。ただ、この案に決定したわけではない。詳細な計画も進めていない。まずは従業員、選手、ファンや大衆の健康と安全が最も大事だ」(4月7日に発表されたMLB公式文書)
これを受けて、アリゾナ州のダグ・デューシー知事は14日、地元紙アリゾナ・リパブリックの取材に対し、積極的に受け入れる姿勢を表明。MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーと数回に渡って会談を持ったことも明かした。その上で、「ここには野球のための十分な施設とホテルがあります」と、開催に向けて自信のほどを示している。
ただし、選手やスタッフがホテルと球場の間を集団で移動するとなれば、密接・密集・密閉の3密状態が生じやすい。野球はチームスポーツでもあり、感染リスクが高まらないよう、細心な配慮が必要となってくる。