判定を機械に任せたほうが感染リスクを抑えられる
そうした中でにわかに議論の対象となっているのが、ストライク、ボールの判定にロボット球審を導入してはどうか、という意見である。
野球では打者、捕手、球審の3人が集まるホームベース周辺が密接・密集状態になる。球審がストライク、ボールを大声で判定すれば、当然唾液の飛沫も飛ぶ。それなら、この判定を機械に任せたほうが感染リスクを抑えられる、というわけだ。
これは飛躍でも冗談でもない。MLBはここ数年、ロボット球審の実現を推進しており、コロナ禍がなければ、今年から1Aフロリダステートリーグで試験的に取り入れる予定だった。これがうまくいったら、来年は3Aでテストして、メジャーリーグには2024年ごろに本格導入する見通しになっていたのだ。
このロボット球審は昨年7月、独立リーグのアトランティック・リーグのオールスターで初めて使用された。球審はドップラーレーダーを使ったコンピュータの判定をiPhoneで受信。イヤホンを通してジャッジを聞き、ストライクかボールかをコールする。
昨年まではまだ球審が捕手の後ろに立ち、従来通りにコールしていた。が、システムが正常に機能していれば、球審が常に同じ場所に立っている必要はない。極端な話、ネット裏にいる公式記録員が判定を受信し、マイクを通してストライクかボールをコールして、電光掲示板のS(ストライク)かB(ボール)のランプを点ければいいわけである。
しかし、そうなったらそうなったで、また新たに大きな問題が発生する。「ルールブックのストライクゾーンを変えなきゃならなくなりますよ」と、捕手出身のプロ野球OBがこう指摘するのだ。
「現行ルールでは、ストライクゾーンの高さはバットを構えた打者の肘から膝までです。しかし、実際のストライクゾーンは肘よりも低い。自分でやってみればわかりますが、肘のあたりに投げられたら、物理的にも身体的にもバットに当てて打つことはできません。だから、肘の近くに球が来たら、人間の球審はすべてボールと判定してるんです。それがロボットの球審に代わった途端、みんなストライクになっちゃう。そんなことになったら、試合が成立しなくなりますよ」
いまのところ、マンフレッド・コミッショナーはアリゾナ・リーグの実現性について、「いろんな緊急時の対応策を話し合っているが、まだ計画段階に至っておらず、アイデアと呼べる程度のものに過ぎない」と、慎重に言葉を選んでいる。
また、ドジャースのエース左腕クレイトン・カーショーをはじめ、否定的なコメントを出している選手も少なくない。アリゾナ特有の猛暑に加えて、家族と4カ月以上も離れて〝単身赴任生活〟を強いられることには同意できない、というのだ。
しかし、時間は待ってくれない。シーズンの百数十試合を消化できるタイムリミットは確実に近づいている。
灼熱のアリゾナで、マネキンが見守る中、ロボットが判定を下す。そんなメジャーリーグの試合が現実に行われるのか。これは日本のプロ野球にも大きな影響を与えそうだ。
◎参考資料(インターネット記事)
●ベースボールチャンネル
「MLBは無観客&選手隔離で開催可能。感染症研究所長ファウチ博士が発言、州知事らも『前向き』」角谷剛 4月16日配信
「夢物語か名案か。MLBのアリゾナ全試合開催プランがユニークな理由 新型コロナウイルス対策のアイデア続々」角谷剛 4月8日配信
●東スポWeb
「MLBマンフレッド・コミッショナー『キャンプ地開催案はまだアイデア段階』」青池奈津子 4月16日配信
「ドジャース・カーショーがアリゾナ開催に反対『家族と4カ月半離れるなんて無理』」青池奈津子 4月15日配信
「ホワイトソックス中継ぎ右腕もアリゾナ開催に否定的」カルロス山崎 4月15日配信
●Sportsnavi
「台湾プロ野球、世界に先駆けて『開幕』 現地で見えたウイルス対策、選手たちの声」駒田英 4月15日配信
●WEDGE Infinity
赤坂英一の野球丸「球審ロボット化で“闇判定”が消滅する?」2019年7月31日配信
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