2024年4月19日(金)

サムライ弁護士の一刀両断

2020年5月21日

株主権の確保や説明義務を尽くすための工夫が必要

 だからといって「株主の権利行使に配慮しなくてよい」ということには当然ながらなりません。

 経済産業省のQ&Aでも、株主に来場の自粛を求める場合に、書面やオンラインでの議決権行使の方法を案内することや、株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合にその旨を招集通知や自社サイト等に記載して理解を求めること、入場の制限をする場合に株主の平等を期すなど措置を取るべきという記載があります。

 実際には、来場の自粛を求める以上は、書面やオンラインでの議決権行使の方法を工夫したうえで、今まで以上に株主にわかりやすく周知することは、最低限必要な措置だと考えます。

 また、総会の開催に先立ち株主から事前に質問や意見などを幅広く受け付け、議場で答えるとともに、質疑をウェブサイト等で公表するというのも一つの手段です。

 会社が株主総会で株主に十分な権利行使をさせなかったり、事業の状況や議案について十分な説明を行わないまま経営上の課題について重大な決議をしてしまったような場合、決議が取り消されることもあります。新型コロナの影響下で株主権をいかに確保するかは大きな課題です。

「火事場泥棒」的な決議は避けるべき

 さらに、株主に来場の自粛を呼びかけた株主総会で、賛否のわかれる議案の審議がどこまで可能かも課題の一つです。

 基本的には、来場制限や開催時間の大幅な短縮などにより、株主の権利が十分に確保できていない総会で、株主の意見が大きく分かれるような議案を審議することはなるべく避けるべきでしょう。

 例えば、株主から経営責任が問われている役員の再任議案など、否決の可能性があるような議案について、新型コロナ対策を口実にして株主の来場を制限し、株主が決議に参加できない状況をことさらに利用する形で議案を可決させた場合、手続に法令・定款違反があるとして決議取消の対象となる場合もあり得ます。

 そうでなくても、株主による十分な議論が確保されない状況下の株主総会で、賛否が大きく分かれる議案を決議することは、それ自体が「火事場泥棒だ」という批判を招きかねません。

 近年、株主と会社とのコミュニケーションの場としての株主総会の役割がとりわけ重視されていることからしても、火事場泥棒的な決議は企業のイメージダウンにもつながります。


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