救世主となるか、若手弁護士登場
頭部が薄いが30代前半と思われる弁護士登場。16時ちょうどに筆者にオフィスに入れと手招き。英語が話せるか問うと「上手くないが多少は話せる」と謙虚だ。
経緯説明すると「貴殿は表看板に誘導されて適用交換レートを誤認した模様であるが、貴殿が米ドルをズローチと交換したいという意思表示は明確で、両替屋は店内に掲示された契約条件に従ってズローチ通貨と領収証を発行した。この時点で契約は合法的(legally)に成立している」
「成立した契約は双方を拘束する(binding both parties)」と聞いてヤバイと思った。“合法的に成立した契約は双方が合意しない限り取り消しや変更ができない”のは商取引の大原則だ。
日本のようなクーリングオフ制度については「通信販売やテレホンショッピングなど実際に商品を確認せずに契約する取引形態だけがクーリングオフの対象。対面の両替取引は対象外」と解説。
消費者保護にも元社会主義国家特有の事情
彼によるとポーランドの消費者保護の法体系は欧米民主主義国家よりも遅れているという。配給制度から一気に市場経済に移行した時期に、自由市場で取引することに不慣れな人々は売買取引が成立した後で“価格や取引条件がおかしい”と騒いで返品や交換を要求して市場秩序が大混乱した。
このため市場秩序維持を優先する法体系となっているという。
トリックのような表看板の表示については“消費者側に詐欺行為の挙証責任がある”と指摘。しかし複数の両替屋の共同謀議(joint conspiracy)を立証するのは困難との見解。
「法廷闘争以外に両替屋など金融業を監督するポーランド国立銀行(ポーランドの中央銀行)を動かす方法がある。それには在クラクフ日本領事館からポーランド国立銀行に働きかけて旧市街の両替商を取り締らせるのが現実的であろう。$200を回収できる保証はないが、常習的悪質行為を止めさせることはできる」と親身に現実対応を示唆。
若手弁護士から学ぶ教訓
両替による損失70ズローチ(約1800円)と日本領事館経由で国立銀行を動かす日数を天秤にかけたら、追及を断念すべきと算盤をはじいた。それよりも有能で人間味がある若手弁護士に興味を抱いた。
彼は地元出身でポーランド最古の名門クラクフ大学法学部卒。87年生まれの32歳。社会主義崩壊後の混乱期に育った。
子供の頃両親はデンマークで出稼ぎをしていた。夏休みにデンマークに兄弟姉妹で遊びに行った時のこと。お金が乏しい一家はキャンプ場に泊まった。フライトチキン、ポテト&コーラのセットが破格に安かったので注文したらお持ち帰り専用の価格だったのでフォーク、ナイフ、皿、コップなどがなくて困ってしまった。
幸いキャンプ場のオーナーが親切で貸してくれた。その時父親が「上手い話には裏がある。疑ってかかれ」(If it is too good to be true. Be careful and doubt it)と子供たちに諭したという。
66歳の年金生活者のオジサンにも心に沁みる教訓となった。
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