インド経済を読む

2020年6月2日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

動きだす国内産業、しかしその経済効果には疑問符が

 実際、ロックダウンというコロナ対策へ「進む」形から少しずつ「退く」形で、インド経済は5月に入ってからまず製造業中心に動き始めた(5月29日土曜日、インド政府はさらなる緩和を発表し、事実上ほとんどの産業6月1日より再開が可能となった)。

 製造業は様々な部品会社から成り立っておりその部品が1つでも欠けると稼働することができない。そのためマルチスズキやヒュンダイなどの大企業が「動く」と言えば、すべての部品会社も「動く」と言わざるを得ない。皆不安を抱えながら、再び従業員を集めラインのメンテナンス作業から始めている。

 ただそれでもマルチスズキの予想生産台数はそのキャパシティの3割程度に留まっており、インド経済の回復…というレベルには程遠いのが現状だ。そもそもコロナ以前よりインドの自動車市場は停滞していたうえに、今回のコロナ騒動で消費者の消費マインドも停滞しているので、業界の景気回復にはまだまだ時間がかかりそうだ。

 次にインドは患者数が拡大し続けているにも拘わらず、大都市間の国内線のフライトを復活させている。「ロックダウン」なのに「都市間移動が可能」と言われると少し混乱する人も多いと思うがこれがインドの現実だ。私のメールアドレスにも国内航空会社からの営業メールが頻繁に届くようになった。感染が急激に拡大しているムンバイも含める国内移動の再開には批判も多かったが、各航空会社はフェイスシールドを乗客に配布するなどして安全性をアピールしている。

 一方航空運輸大臣であるハーディープ・シンは国内線のコロナ前への完全回復の予測を「ディワリまでに」と回答した。ディワリは北インド最大のお祭りで今年は11月中旬が予定されている。回復にあと5か月以上もかかるという回答に、メディアからは「消極的すぎるのでは」との批判もあったが、現在の増え続ける患者数を見ると現実的なラインであり良心的回答というのが私の正直な意見だ。

 また、国際線も6月後半より徐々に復活させるという声明も発表された。世界が新型コロナウィルスに関して落ち着きを取り戻しつつある中で、感染の急拡大を続けるインドからの国際線を受け入れるのだろうかとの疑念はあるが、インド政府はインドに到着する乗客の2週間の隔離を前提として再開への道筋を発表した。

 実際、日本は外務省の渡航情報でインドの感染症危険レベルを従来の2から3に引き上げており、インドが「再開する」と言ってもこの状況のインドへフライトを飛ばす航空会社は少ないだろう。また中国も自国民のインドからの引き揚げを始めると発表しており、このあたりインドが考えている自国の姿と、外国が見ているインドの姿に大きなギャップを感じざるを得ない。

 おそらくインドは、このまま患者数が減らぬまま徐々に経済を再開させて、また患者が増えたらまたその都度少しだけ規制を強化するという方法で「時間をかけて」コロナと戦うという方法をとることにしたようだ。実際今日も数日前に開放されたハズのデリー・グルガオン間の往来を一転また封鎖するとの発表があった。これでまた動き始めた製造業の物流や通勤などにも大きな影響を及ぼすだろう。

 毎週のように規制や通達が変わるという状況は、特に多くの設備投資をし、コンプライアンスも遵守する日本企業にとっては非常に厄介な問題だ。届くはずだった材料が全く届かなくなったり、来られるハズだった従業員が来ることができなくなったりし、ロスや無駄が増えるからだ。

 規則や通達がたびたび変わる…というのは途上国でビジネスを行う上での代表的なリスクの一つだが、今回のコロナ騒動はインドにおけるそのリスクの大きさをまざまざと見せつけたように見える。

 このような状況は資金力ある大企業しか乗り切ることは難しいだろう。そのため、ようやく中小企業にも広がってきた日本企業のインド進出、さらにはネクストチャイナの有望株と世界中から見られてきたインド経済への投資全体に冷や水を浴びせることになりそうだ。

  
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