インド経済を読む

2020年4月28日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]
クラスターが発生したムンバイ・ダラヴィ地区(Elena Odareeva/gettyimages)

 前回の記事(『全土で長期間の都市の封鎖「ロックダウン」に踏み切ったインド』)で私はまだ新型コロナウィルスの感染者が少ない段階でロックダウンに踏み切ったインド政府は賢明だとの趣旨の記事を書いた。インドのような国だと素早い強硬措置を早い段階でとらなければ、感染拡大は防げないと思ったからだ。

 しかし4月24日現在、現実的な数字を見ると私の期待を裏切りインド全土での患者増加傾向は全く止まっていない。

 特にインド最大の都市ムンバイを擁するマハラシュトラ州の感染拡大は深刻で今日4月24日時点で、6000人を軽く超えている。インド全体だと約2万3000人、死者は約700人で、少し前まで日本とほぼ変わらなかった数字はもう日本を突き放して増え続けている。現地‘Times Fact India Outbreak Report’というレポートでは、このままだと5月22日には患者数は7万5000人を超えると予想されている。日本の新型コロナ関連ニュースを見ても「日本は健闘しているな」と相対的に思えてしまうくらいの拡大のスピードだ。

 このような患者数の増加傾向は4月頭よりずっと続いており、その結果当初のロックダウン期限直前の4月13日、モディ首相は再び国民向けに演説を行い、このロックダウンの5月3日までのさらなる延期を表明した。

 ある程度経済を犠牲にしてロックダウンを4月15日まで延期した3月のモディ政権の素早い対応を当初私も歓迎したのだが、これが5月3日まで続くとなると「インド経済はどうなるのか?」「その結果として失業者が増えて治安が悪化しないか」などの不安のほうが大きくなってきた。実際、最近クライアントから増えている相談は現地法人のダウンサイジングや閉鎖の相談である。なかなかロックダウン解除の見通しが見えない、つまり売上が立たないインド経済の現状に対して、日本本社が見切りをつけだしているのだ。

 ムンバイではこのロックダウンの5月3日までの再々延長によって、仕事を失い行き場がない出稼ぎ労働者が暴動を起こし、警察がそれを制圧することとなった。日本のニュース映像でも流れていたのでご覧になった人も多いだろう。一方首都デリーでも当局は同様の暴動には神経をとがらせており、出稼ぎ労働者が食うに困らぬように炊き出しを行っているが焼石に水感が否めない。そして何よりそういった暴動やデモ、炊き出しが新たな感染のホットスポットになる危険性もある。

 今はまだロックダウンに対する不満は出稼ぎ労働者が中心だが、この延長措置により従業員を解雇する企業が現実的に出てきたら、その不満は一気にインド全土に広がり暴動は一気に拡大する恐れがある。それはインド政府も避けたいシナリオだろう。

 象徴的だったのは、今回のロックダウン再々延長の発表の経緯だ。

 13日のモディ首相からの正式発表の数日前からすでに、複数の州知事などの州政府関係者から

 「ロックダウン延期をすでにモディが決めた」

 との情報が洩れていた。

 「ロックダウンを継続しないと患者数は爆発する。でも経済が停滞したら暴動が起きる」

 という日本と似たようなジレンマを抱えた州政府が「これは中央政府が決めたこと」と早めに責任を回避したかったのではないかと邪推したくなった。

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