インド経済を読む

2020年6月2日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]
バンガロールの人気屋台でテイクアウトを待つ人々(AP/AFLO)

 前回の記事(「『ロックダウン』はさらなる延期、経済が危ぶまれだしたインド」)では、インドにおける新型コロナウィルスの患者数はハイペースで増えているとお伝えしたが、5月29日になってもそのペースは衰える気配がない。いや、さらにそのペースを上げて増え続けている。累計患者数は16万人を超え、一日に約7000人以上のペースで増え続けているのだ。

 死亡者数がまだ5000人に達しておらず死亡率が他国と比べ相対的に低い点だけは幸いだが、それでもある程度落ち着きを見せ始めた欧米と違い、ブラジルとともにインドはまだまだピークは先にあるかもしれないと思わせる感染の拡大ぶりだ。

 世界的にはインドは「ロックダウン≒都市封鎖」下にあると思われている。そして同時にこのような強硬措置をとっているのになぜ患者が増えるのか? とも思われている。

 一般的に「ロックダウン≒都市封鎖」と言うと、

  • 医薬品・食料品購入目的以外の外出は禁止
  • 都市間の移動禁止
  • 在宅勤務の徹底

 などがイメージされるが、今現在のインドの「ロックダウン」は少し違う。

 インドのロックダウンは現在、全土を①グリーンゾーン②オレンジゾーン③レッドゾーン④封じ込めゾーンの4つに分類して、それぞれの地域で許される活動を細かく定めるという方法をとっている。ちなみに私の家やオフィスがあるデリーのあるエリアは③レッドゾーンに分類されている。上から2つ目に危険とされているエリアだ。

 「レッドゾーン」と聞くと、非常に規制が厳しそうなイメージがするが、実際は従業員の33%までは出勤が認められており、車の利用も人数規制(3名まで)を守ればOKとなっている。隣接する州への移動も州政府同士が認めればOKだ。実際私は今週食材の買い出しのために2カ月振りに車に乗ったのだが、道路には渋滞があった。なかには明かに4名以上乗っている車も見受けられた。

 オレンジゾーンに至っては、オフィスはほぼ通常通りの勤務が可能であり、正直「ロックダウンとは?」と首をかしげてしまうような状況だ。公式には「インドはまだロックダウン中」と声明を政府は発表するものの、その細則はとても「ロックダウン」を言えるものではない。その結果が現在陥っている「ロックダウンなのに止まらぬ患者の増加」だと考えられる。

 しかし、このようなブレーキとアクセルを同時に踏むようなチグハグな対応も、インド政府の苦悩がにじみ出ている。

 3月に迅速に全土ロックダウンに舵を切ったものの、前回の記事で書いたような貧富の差の問題や出稼ぎ労働者への対応を誤ったことで感染拡大は収まらなかった。一方「早く経済活動を再開させろ」という経済界や州政府からの圧力も強く、経済成長の成果を従来よりアピールし続けその政権基盤としてきたモディ政権は、結果として

 「ロックダウンはするが、経済活動もある程度認める」

 というどっちつかずの手法をとらざるを得ない状況に追い込まれてしまった。

 言い換えるとインド政府は、感染拡大を抑えるためにロックダウンを強化すれば経済が停滞し国民の反発を招く、逆にロックダウンを緩め経済を再開すると感染が拡大しこれもまた国民の反発を招く…という「進も地獄、退くも地獄」という事態に直面し、結果「『進む』と言うが、実際は少しずつ『退く』」という対応をとることになった。

 そしてその結果が「患者は減らず、経済も弱々しい」という今の状況なのだ。

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