2022年7月2日(土)

安保激変

2012年6月15日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

明海大学外国語学部教授

日本国際問題研究所主任研究員を兼任。専門は日本の外交・安全保障、日米同盟、インド太平洋の国際関係。主な共著に『アジアの国際関係―移行期の地域秩序』(春風社)など。
 

海洋法制定を主導した米ソ

 そもそも、国連海洋法条約の制定を主導したのはアメリカとソ連だった。第二次世界大戦後、漁業や海底探査の技術が向上し、様々な国が幅広い海域の管轄権を主張するようになった。

 58年と60年に国連の場で統一した海のルールを作ろうとしたもくろみは泡と消え、70年代初頭には海はまさに無秩序に近い状態となっていた。それは、世界規模で海軍を運用するアメリカとソ連にとっては、航行の自由を脅かしかねない状況だった。このため、米ソ冷戦の最中であるにもかかわらず、両国は統一した海のルールを確立して航行の自由を守るために国連海洋法条約の制定に向けて共同歩調を取ったのである。

 米ソが重視したのは、3~200海里までばらばらだった領海幅の統一と国際海峡の自由通航、そして沿岸国の漁業権であった。米ソは沿岸国が12海里(約22キロ)までの領海と、200海里(約370キロ)までのEEZを宣言できることを認める一方で、EEZや国際海峡の自由通航権を確保した。米ソは、沿岸国の経済的な管轄権に配慮しつつも、狭い領海と広い公海という海洋の自由の構図を維持し、新海洋秩序を成立させたのである。それは、海洋大国と沿岸国の利害を微妙な均衡の下で調整したものであり、両者の妥協の産物でもあった。

 アメリカは国連海洋法条約に加盟はしていないが、実際には、それを慣習国際法として受け入れ、これに基づく国内法を整えている。アメリカが問題としたのは、条約の深海底の開発に関する規定が自由競争を阻害し、途上国に有利過ぎる点である。批准に反対する上院議員も、主にこの深海底に関する規定を反対の論拠としてきた。しかし、94年にこの深海底に関する規定は先進国、とりわけアメリカにとって有利なものに事実上改正されている。日本やその他の先進国が国連海洋法条約を批准したのも、この改正がなされたからである。

多国間主義や国際機関に対する根深い不信

 では、なぜ一部のアメリカの保守派は海洋法条約(Law of the Sea)をLOST(=敗北)と呼び、依然として加盟に反対するのだろうか。それは、孤立主義、または単独行動主義を反映したものなのだろう。つまり、アメリカには独裁国家にも等しく発言権を与える多国間主義や腐敗の温床となる国際機関に対する根深い不信があり、アメリカの思い通りにならないような枠組みには入る必要がないと考える人たちがいるということである。かつて、アメリカはウィルソン大統領が主導した国際連盟に上院の反対で加盟しなかったが、それと同じ構図である。

 しかし、中国の法律戦はアメリカが主導して作り上げた海洋自由の原則を脅かしている。アメリカが海洋法条約の外側にいる間に、中国にとって有利な新しい海洋秩序を作り上げようとしているのである。アメリカ上院が国連海洋法条約を批准するかどうか採決するのは、大統領選挙の後になる見通しである。しかし、中国の法律戦に対抗するためにアメリカは海洋の自由を守るために真剣な議論を続けることだろう。

→次ページ 日本がとるべき対応は……

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