野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2020年6月29日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

親中派は強気の発言

 一方、親中派からは、同法案が実現しそうな情勢のなか、強気の発言が目立っている。28日から同法案を議論している全国人民代表大会常務委員会では、香港の全人代常務委員メンバーである譚耀宗氏を含めて、10名の香港の全人代代表が参加しているが、譚耀宗氏は北京での会議への出発前にメディアの取材に対して「必ず遡及期を設けないといけない」と述べた。

 刑法には通常は法律が確定した時点から過去に遡って罰することを回避する「不遡及の原則」があるが、この発言は昨年のデモや雨傘運動に参加した人々も当時の行動を国家安全法によって裁くことを求めるような懸念を持たれるものだ。また、譚耀宗氏は「刑罰は軽すぎてはいけない」とも強調した。

 刑罰について参考になるのは同じ一国二制度のマカオで実施されている国家安全法だが、政府転覆罪に問われた場合は懲役10年から25年、国家分裂罪でも同様に10年から25年という重い罪になっている。同時に複数の罪に問われると最高刑期は30年まで上がる。また、中国国内の刑法では国家転覆や国歌分裂を組織、策謀、実行した場合は、首謀者や罪状の重い者は無期懲役あるいは10年以上の懲役となり、積極的に参加した者は3年以上10年以下の懲役、その他の者は3年以下の懲役などの刑罰が科されている。

 5月21日に国家安全法案の制定が発表され、全人代で導入方針が可決されたのが5月28日。それから1カ月あまりで最終段階まで至っているのは異例のスピード審議で、9月に行われる立法会選挙で民主派の勝利の可能性を潰したいという思惑が透けて見える。こうした状況のなか、香港政府は一切、公聴会などで一般市民の意見を聞く機会を設けない構えで、親中派の譚耀宗氏は「すでに5月28日に全人代で法案制定が決まっているので、反対意見を議論する意味はない」と言い切っている。

  
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