2024年12月13日(金)

中東を読み解く

2020年7月8日

代理人を使った報復の懸念

 専門家らは破壊された施設の衛星写真などから、攻撃は巡航ミサイルや無人機の爆撃ではなく、内部に仕掛けられた爆弾による爆破との見方を強めている。爆破が行われたのは未明とはいえ、イラン側の警備は核施設という性格上、厳しく敷かれていたと見られている。そうした警備のスキを突いて内部に侵入し、強力な爆弾を仕掛けるのは容易ではない。

 爆弾などの軍事物資に加え、作戦の立案や退路の確保など周到な準備が不可欠であり、「最低10人前後の人員が必要。今回の場合は施設内部の手引きがあったと考えるのが妥当だろう」(ベイルート筋)。そのためにはイラン国内に秘密作戦基地や前線基地を設置しておかなければならず、組織的な特殊作戦のプロ集団でなければ、作戦の遂行は困難だろう。

「恐らくこうした組織的な対外作戦を実行できるのはモサドしかない」(同)というのは大方の見方でもある。モサドは2018年、テヘランの秘密倉庫に侵入し、核開発関連の秘密文書を盗み出し、一部を核開発の証拠としてIAEAに持ち込んだ。イラン国内に相当大掛かりな支援網を確立していなければできない作戦だった。

 イスラエルは今回の爆破事件への関与については否定も肯定もしていない。

 ガンツ国防相は「誰もがわれわれを疑うことはできるが、それが正しいとは思わない。イランで起こるすべてのことが必ずしもわれわれに関係しているわけではない」と述べ、含みのある発言をしているのが注目に値する。

 問題はイランが報復行動に出るのかどうかだ。破壊された施設が最高指導者ハメネイ師の直接的な指示で稼働したことを考えると、イラン側が何も対応しないということは考えにくだろう。何らかの形で報復行動に出ると想定した方が合理的だ。だが、イスラエルが破壊作戦に関与したという明確な証拠がない状況では、同国に弾道ミサイルを撃ち込むなどの軍事行動は本格的な戦争に発展することから困難だ。

 となると、イランの配下であるレバノンの武装組織ヒズボラやシリアのシーア派過激組織など「代理人」を使ってイスラエルにゲリラ攻撃させるというのが最もありそうなシナリオだ。ペルシャ湾のタンカーやサウジアラビアの石油関連施設に対する「何者かの」攻撃が始まり、イスラエルの後ろ盾である米国が揺さぶられる懸念もある。

 イランの隣国イラクの首都バグダッドで7月6日発生した反イラン系の有力学者の暗殺事件はイラン支援のイラク武装組織の犯行である可能性が高いが、地域を不安定化させてイランの力を誇示するのはハメネイ体制のやり方でもあり、イランの報復の一環という見方も出ている。ナタンズの核施設の破壊事件は静かだった中東が緊張状態に逆戻りする序章であるのかもしれない。

  
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