180度違った大きな突破口
また、この映画が伝えるもう一つの大事な点は体と心の問題だ。心身二元論、心と体は別物だという考え方が長く浸透してきたが、どうもそうではないと多くの人々が気付き始めている。今はそんな時代だが、映画は体の問題がときに精神を大きく変えることを暗示している。
象徴的なのは、少年院のグラウンドを走らされたあとのアメッドの表情だ。かつて「体育会系」「オンリーパワー・ノーブレーン(体力だけで脳はなし)」などという言葉が流行したのは心身二元論がはびこっていたからだ。しかし、沈思黙考するよりも、とりあえず体を動かしてみたら何かの答えが得られるということがある。あの場面はアメッドが少しずつ変わっていく様子を、しかも体を動かすことで信仰心を落ち着かせていく過程を端的に描いている。
そして終幕。彼は自身の体の痛みを通して、180度違った大きな突破口を見出す。
ダルエンヌ兄弟はベルギーの移民社会やイスラム過激派の問題を単に写実したのではない。この映画を通し、誰にもあり得た思春期の危うさと、突然の行動を通してそこから脱却していく人のあり方を描きたかったのではないか。そんなふうに思えた。
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