定年バックパッカー海外放浪記

2020年7月26日

»著者プロフィール
閉じる

高野凌 (たかの りょう)

定年バックパッカー

1953年、横浜生まれ。神奈川県出身。大学卒業後は商社、メーカー勤務を経て2013年定年退職。2014年春から海外放浪生活を始める。放浪歴は地中海、韓国、インドシナ半島、インドネシア、サンチアゴ巡礼など。サラリーマン時代は主として海外業務に従事。ニューヨーク、テヘラン、北京にて海外駐在を経験。身長170センチ、57キロ。獅子座。A型。現在2人のご子息は独立し、夫人との2人暮らし。孫1人。

(2019.10.3~12/3 62日間 総費用18万2000円〈航空券含む〉)


 インドを旅していると人種、宗教、気候、自然、カースト制度などを背景に多様化した社会に驚く。均質社会の日本とは真逆の世界である。医療事情という観点からインドで見聞したことを振り返ってみたい。

砂漠の寒村の疾患の原因は貧困な食生活

 インド西端のラジャスターン州のジャイサルメールはタール砂漠に築かれた城塞を中心とした小都市である。

 滞在したホテルのサブマネージャーと雑談していたら、名前が回教徒名のユセフというので聞いてみたらホテルのオーナー以下従業員も全員回教徒とのこと。ユセフは26歳でジャイサルメール郊外の砂漠の村の出身だった。

 翌日は休暇を利用してラジャスターン州中央部にある人口130万人の大都市ジョードプルに出かけるという。ユセフは毎月1回年母親をジョードプルの大きな公立病院に連れて行くのだ。母親は脳梗塞で左半身が麻痺しており、診察してもらい血栓を防ぐ薬をもらってくる。ジャイサルメールからジョードプルまで公共バスで片道6時間なので丸1日がかりだ。

 母親は現在48歳で数年前に脳梗塞を発症。村では平均寿命が60歳前後。砂漠地帯の農村では朝料理した食事を昼と夜と3回に分けて食べるという食習慣。食材が穀物と豆類が大半なので慢性的に栄養状態が悪い(malnutrition)という。

 そうした栄養事情が脳梗塞や循環器系の病気が多い原因とジョードプルの医者は指摘しているという。

経済発展と糖尿病増加の相関関係

 グジャラート州のジャイナ教とヒンズー教の聖地であるジュナーガルからインド洋に面した海辺のリゾートのディーウへバス移動。

 バスの隣席の40歳くらいの男性は内科医でグジャラート州南部の小都市の公立診療所の院長。
彼のクリニックでは糖尿病(diabetes)患者が多く、しかも年々増加しているという。院長によるとグジャラート州は現在のモディ首相が州知事を務めていた時代に積極的に産業を誘致して急速に経済発展してきたという。確かにバスの車窓からは夥しい数の新しい工場や倉庫が見える。

 院長によると経済が成長すると糖尿病が増加するという相関関係があるという。ソーダ類やジャンクフードが大量に安価に消費できるようになったことが原因と指摘した。院長先生は「経済成長は大歓迎だけど、糖尿病は深刻な社会問題」と顔を曇らせた。

お金に余裕があれば快適なインド医療

 ボパールは人口180万人の大都市。フライドチキンを食べていたら、ブリッジをしている前歯が外れてしまった。

筆者がお世話になった歯科医の看板。マルチ・スーパー・スペシャリストと大仰な形容詞で宣伝している

 ネットで歯医者を探してアポなしで訪問。途上国の診療所の常として患者が群れていて数時間は順番待ちするだろうと覚悟していた。

 ところが空調が効いた清潔な待合室には先客がおらず、受診表に適当に記入したら直ちにに治療室に案内された。ドクターに事情を説明すると看護師が接着剤を用意して数分で修復完了。あまりの手際の良さに拍子抜けした。そして清潔さを含めたインテリアや医療設備は日本と同水準であった。

 お会計は500ルピー(≒800円)也。500ルピーはインドの庶民にとっては比較的大きな出費であろう。受付嬢のパソコンの診療記録を見せてもらったら、完全予約制で当日午前11時現在の患者数は筆者を含めて9人。診療報酬の欄を見ると筆者以外は1500~2500ルピーの間であった。

 公立病院では診療費・治療費は無償なので、貧乏人は個人経営の歯医者には行かない。経済的に余裕がある客筋だけなので待つことなく快適な医療を受けることができたのだ。

 ほっとして歯医者を出て周囲を見回して奇妙なことに気づいた。通りの両側が医療関係の看板だらけなのだ。商店は薬屋、医療機器関係ばかり。そして見渡す限り内科、外科、歯科、循環器、消化器、眼科耳鼻科、美容整形……と様々なクリニックや専門病院が並んでいる。

 ある薬局のオーナーに聞くと、

 「丘の上に国立医科大学と付属病院の大きな建物が見えるだろう。大学病院目当てに薬や医療器具を売る店ができた。その後次第に色々な個人経営のクリニックや私立の病院も集まってきて、現在のようなメディカル・タウンが形成されたんだよ」

 オーナーによると、ボパールは人口約7400万人のマディア・プラデーシュ州の州都である。ボパールの国立大学病院には周辺の町や農村から沢山の患者が集まってくる。インドの公立病院では医療費が無償であるので貧しい人々が行列を作って診療を待つ。大学病院には無料の簡易宿泊所もある。そこで経済的余裕のある人は大学病院周辺の私立病院に行くという棲み分けが出来ているという。

国立大学病院周辺はメディカル門前町

関連記事

新着記事

»もっと見る